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2020.06.09

ピカソも北斎も「意味づけ」で傑作に ビジネスに役立つ付加価値の創出法

Chris Hondros /Getty Images


世界で最も人気のある日本の美術といえば、葛飾北斎の浮世絵である。北斎の代表作「神奈川沖浪裏」は、フランスでは次のように意味づけされているらしい。

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葛飾北斎「神奈川沖浪裏」 写真:Carl Court/スタッフ/Getty Images

江戸時代、この場所に船が出るのは夏場だけ、だからこれは「夏」の絵である。しかし、向かって左半分を見ると、大波のなかに何やら富士の形をした波がある。よく見ると、右肩流れの富士だ。北斎の富士には、「身延川裏不二」や「甲州石班澤」に描かれているような右肩流れの富士がある。そして「浪裏」には雪をいただいた富士がある。つまりは、「神奈川沖浪裏」の裏は冬を意味し、1枚の浮世絵に夏と冬が同居している。

どうやらこのように解釈されているらしい。なるほど、だから普通なら「神奈川沖浪」というタイトルでよいところ、「浪裏」と「裏」があるのは、その部分に意味があるということなのだ。こう聞かされたら、もうそのようにしか見えない。

北斎の死後、遠く離れた異国で、このように意味づけされたことで、作品は大きな付加価値を得ることになった。そして、この作品ばかりではなく、その技法にも注目が集まり、浮世絵人気が高まり、安藤広重、喜多川歌麿、歌川国芳らの作品もそれに続いていく。

アート史上最大の意味づけは「ゲルニカ」


意味づけとは潜在ニーズの掘り起こしであり、その効果は絶大という例をもうひとつ挙げてみよう。

パブロ・ピカソの代表作は何かという議論があるが、私にとっては「ゲルニカ」だ。この作品は、1937年に、内戦状態にあったスペインの共和国政府が、パリ万博のスペイン館を飾る壁画として、ピカソにオーダーしたものだ。

ピカソは当時10年ぐらいにわたって、「闘牛」や「強姦」など暴力的な作品を描いていた。その集大成的に描いたのが「ゲルニカ」だった。しかし、描いた絵の不快感さ、性的幻想について、ピカソ自身も悩んでいたらしい。何しろスペインを代表して飾られる作品なのだ。

しかし、スペイン内戦が激化し、反乱軍と手を組んだドイツ空軍によるゲルニカ爆撃が始まった。フランスの詩人であるポール・エリュアールとマックス・ジャコブは、ナチスの攻撃に抗議する意味で、この作品に「ゲルニカ」という名前を冠したらどうかと、ピカソに提案した。ピカソは喜んでその提案を受け入れた。

かくして誕生した「ゲルニカ」は野蛮な戦争行為を告発し、世界平和をアピールするという大きな意味を持つピカソの代表作のひとつとなったのである。

この話を聞いたとき、「本当か?」と思ったほどである。近現代だけでなく、美術史上おそらくトップクラスのマスターピースですら、意味づけしたことで新たな付加価値が生まれたのである。

意味づけは、このような傑作を生み、あわやお蔵入りしかけていた作品を美術史に残る名作に押し上げたのだ。

これは、アートほどの爆発的な付加価値は生まないだろうが、ブランディングなどでビジネスにおいてもヒントとなるエピソードではないだろうか。あなたの会社にもまだ名前の付けられていない「ゲルニカ」が眠っているかもしれない。

連載:「グッドビジネスは魅力的なアートか?」~現代アートとブランドビジネスの相関性
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文=高橋邦忠 構成=松崎美和子

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