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2020.06.17

ビットコイン、起業、アートの共通点は「売り切れがない」こと。|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第5回(後編)

「2つ以上の専門分野を持つことの強み」が言われ始めている近年、実業 x クリエイティブで成果を結ぶ新しい才能として各界から注目を集めている人物がいる。上田岳弘。小説『ニムロッド』で第160回芥川賞を受賞した彼は、その登場によって「日本文学はB.U.(Before Ueda 上田以前)とA.U.(After Ueda 上田以後)に分かたれた」ともいわれる新星だ。

上田氏はまた、文学者としての「クリエイティブな発想」を武器に、最先端のIT企業の経営にも取り組む実業家であることでも知られている。本企画は、上田が、「クリエイティブな発想法」を基にして、社会にイノベーションを起こす各界のリーダーと対談するものである。

第5回は、ブロックチェーンを活用した新時代のアート流通・評価のインフラとなる「Startrail(旧名:Art Blockchain Network)」の構築をリードする「スタートバーン」CEO、施井泰平だ。矛盾もはらむアート市場旧来の価値担保システムへの新技術応用で、アート業界の課題に取り組む。今回はその後編。


どんなにピラミッドが大きくなっても頂点の大きさは同じ


上田:施井さん、逆に贋作や偽物が存在することでかもしだされる「雰囲気」がアートの価値を釣り上げている可能性もありますよね。そこをハッキリさせてしまうことで市場が「萎む」可能性はないでしょうか?

施井:贋作やグレーな取引について、やはりそういった指摘をする人がいます。でも、とある昔、グレーな取引が行われていた商材があって、いざクリアになったらマーケットが100倍になったという話を聞いたことがあります。

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贋作自体を排除する構造ではなくて、なんなら「贋作としての価値」を上げることもできます。ただ、「真作」と偽って贋作を出すのは詐欺ですよね。それではマーケットが良くなるわけがないんです。

もう一つ、1990年代にアートスクールや美大が爆発的に増えて、アーティストが増えると価値が下がるという指摘があったのですが、その時にある有名なトップギャラリストが「どんなにピラミッドが大きくなっても頂点の大きさは同じだ」と言った。実際、そこからマーケットのサイズが4~5倍になっているんです。

だから結局、一個のモノの価値が薄まるのではない。プロの領域に到達できる人数は限られていて、そこに行くまでのヒエラルキーも残るだろうし、価値付けのグラデーションができるかなと思いますね。

上田:つまり論点は2つあって、1つは絵の信頼性をはっきりすればするほど価値は上がる。もうひとつは、裾野を広げれば広げるほど上がる。今まではギャラリーに売り込みに行かなければ売れなかったものが、スタートバーンの基盤に乗せて、最初は100円かもしれないけれど、裾野を広げることで全体に効果がある、ということですよね。

施井:はい。僕もアートのプロでありながら、バリ島に行ってバリ島芸術を見ても、誰が有名かもわからないです。どんなに興味があっても、「コミュニティの外」からはわからないんですよね。だからこそ、ちゃんとレギュレーションを整えて、二次流通に信頼性を付与する仕組みができればいいのかなと思っています。
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文・構成=石井節子 写真=帆足宗洋 サムネイルデザイン=高田尚弥

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