コロナ危機でみえた、時代を共有するデザインの可能性
さらに太刀川は、PANDAIDのように共通の目的意識を持つデザイナーらがインターネットを介して協業する傾向が、コロナ禍以後に加速するだろうと述べる。
「近年、クラウド上でデザインを共同編集することは以前よりもかなり容易になっており、さらにその傾向が加速していくと思います。PANDAIDもそうですが、物理的な距離が離れていても、クラウド上で同じキャンバスを共有してデザインすることが今回のコロナで一般化し始めています」
同じ空間を共有することよりも同じ時間を共有することの方が大切になるという感覚は、私たちにも身近な例に置き換えれば、「オンライン飲み会」などの意識の変化に近いのかもしれない。
コロナ禍で「オンライン飲み会」が流行すると、居酒屋に行かずとも十分に楽しめると感じた人も多いだろう。インターネット上で「時間」さえ共有できれば、親睦を深めたり、ストレスを解消したりといった目的は達成でき、リアルでの飲み会と同じようなパフォーマンスが発揮できるということに気がついたということだ。
太刀川への取材はオンラインで行った。パンデミックを受け、今後のデザインの潮流はどうなっていくのか。
これと似た変化が、デザインの分野でもおこっていると太刀川は指摘する。
「デザインの手段が民主化されると、デザインで何を達成したいのかという目的に重点がシフトしていくと思います。物理的に離れていても、共通の目的意識を持っていれば、遠隔でもコラボレーションすることができるのですから。そうなれば、オフィスのような『空間』に立脚したデザインよりも、共通の目的と『時間』を共有することで生まれるデザインが前景化してくると思います。社会課題は増え続けているし、世界は距離を越えて繋がる時代になっている。そうすると、今回のパンデミックのような切迫した社会的出来事に立ち向かう運動的なデザインへと少しずつ変わっていくと思います」
太刀川が指摘するような変化がコロナ禍によって加速したのであれば、今後はグローバルな課題を解決するために、世界中のデザイナーたちがコラボレーションするなんてこともあるかもしれない。
PANDAIDは英語、中国語、フランス語など6カ国語版を展開し、海外発信も強化していく。日本では緊急事態宣言が解除され、安堵と不安が入り混じった声が聞かれるが、太刀川は「世界での感染はまだまだ広がっており、アメリカとヨーロッパを中心にすでに34万人もの方々が亡くなりました。日本にも第二波、第三波が起こりえないとは限らないし、気を緩めるタイミングではない」と指摘する。
「同じ課題に人類みんなで向き合っているからこそ、一緒に解決できる。そういう意味では、共生社会に向かう起点が生まれるかもしれない。つまりこれからの私たちの行動次第では、より希望ある未来のきっかけにできる。デザイナーとして未来の役に立てることをこれからも考えたいですね」