科学的情報をわかりやすく コロナ禍で発揮される「デザインの力」

「PANDAID」発起人の太刀川英輔氏。低コストで作れるフェイスシールドが話題に。


科学コミュニケーションでユーモアが大切なワケ


また太刀川は、デザインにおいてもう一つ工夫しなければならないことは「正しいだけでは多くの人に拡散しない」という点だと指摘する。

科学とは異なり「正しいから価値がある」とはいかないところがデザインの難しさだ。正確さに加えて、直感的にわかりやすく、かつ記憶に残るようなデザインしなければならない。

PANDAIDの「ソーシャルディスタンシング」のポスターは、そのような工夫が施されたデザインの好例だ。


「認知のずれ」を埋め込むことで記憶に残りやすくなる

「このポスターは多くの好評をいただいたコンテンツの一つなのですが、ソーシャルディスタンシングを意外なもので表現することで、私たちの記憶に残りやすいデザインになっています。ある意味、エラーによって認識させる。覚えてもらいたいデザインには、こういった認知のずれを埋め込むようにしています」

このシリーズでは2mの基準として「ビートルズ」の他に「マグロ」や「タタミ」など、笑いを誘うようなモチーフが採用されている。科学的なデータへと誘導するとともに、記憶へと残りやすい仕掛けが施されているのだ。

「インフォデミック」に抵抗するデザインのあり方


特にパンデミック下では、科学的根拠に基づいた情報を慎重に選ぶ必要がある。しかし、疫病が流行する際には誤情報が広がりやすいというのも事実だ。WHOも「インフォデミック=情報の急激な拡散」の危険性を呼びかけているが、デマやフェイクに対してデザインはいかに立ち向かえば良いのか。太刀川は世界共通の悩みにこう答える。

「スペイン風邪の後、バウハウスが生まれ、民主的なデザインが広がりましたが、逆にその後同じ国でナチスが誕生し、ナチスはバウハウスを解体します。そしてナチスは逆にデザインを巧みに操ってプロパガンダとして悪用したという話は有名です。コロナ以後の世界を考える上で、この前例は重く受け止めなければいけないでしょう」

良いデザインは性質上、印象に残るように作られているため、逆を言えば、プロパガンダやデマにおいても力を発揮してしまう。だからこそ、悪用されないためにはデザインのファクトや、正しい目的の部分をはっきりと意識することが重要だという。

「なんのためのデザインなのか、デザインの導く先を突き詰めて考える必要があります。例えばPANDAIDの場合には、新型コロナウイルスに関する有益な情報を一般の市民へと繋ぐことが目的となるわけですが、デザインによって何と何を繋げるのかを明確にし、コンセプトをデザインにきちんと反映させることが重要だと思います」

デザインの目的は装飾的な美を追求するだけでなく、社会の具体的な目的を解決するための美的手段を発明するという側面が大きい。その際に、正しい目的意識を持ってデザインを考案することが、混沌とした時代の鍵となるのだ。
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文=渡邊雄介

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