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2020.06.16

「ブロックチェーン証明書」はアート市場に変容を起こすか。|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第5回(前編)

「スタートバーン」CEO 施井泰平氏(左)と芥川賞作家・上田岳弘氏(右)


歴史的アーティストは、技術のブレイクスルーで誕生する


上田:現代アートと経営ってかなり近いと思うんですよね。施井さんがおっしゃる、ダヴィンチ的な区別のつかなさ、ノンカテゴライズといったことと絡んでくるのではないかと思うんです。とはいえ成果物としての芸術作品を創られていたのですよね。どういったものを作られていたのですか?

施井:もともと美大では油絵科でした。油絵科って必ずしも全員が絵を描くわけではないんですよ。「美術史の最先端で作品を作る」のが命題のようなところなので。

大学卒業の頃にはテクノロジーをテーマにやっていこうと思っていて、卒業後6年くらいで今につながるプロジェクトを発表しました。一生アートをやっていくなら、効率よくやっていきたいと思って。そういうところは上田さんに似ていますかね。

美術史を見ていると、テクノロジーの発展と、重要なムーブメントの誕生が関わり合っているんですよね。ルネサンスしかり、近現代美術しかりで。じゃあ今の情報の時代を象徴するアーティストになるためにはどうしたらいいのか? と考えて2つの答えにたどり着きました。

1つはギャラリーや美術館に展示する作品を作ること。ここではパソコンやテクノロジーを直接表すような記号は使わず、間接的な比喩表現をする、というルールを作りました。もう1つは、テクノロジーを使ってこの時代を象徴する情報と価値に関わるインフラを作る、というものです。こちらはインフラ作りに年数がかかり、起業が遅くなりましたが、構想やスタートは2つ同時でした。

ブロックチェーンで、世界中のアート関連機関をつなげたい


上田:アートで最先端を突き詰めたい、という欲望がずっとおありだったと。アーティストだったアイデンティティに経営が入り込んできたのは、どのタイミングだったんですか?

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芥川賞作家 上田岳弘Forbes_3_26_20203152

施井:ギャラリーで作品展示もしていましたが、ビジネスを意識したのは起業直前の2014年くらいです。インフラを整えて世界中を巻き込むためには、を考えてプログラミングも自分でやってみましたが、一人で出来ることではないと悟ったんです。それなら仲間をたくさん集めなくてはと起業を思い立ち、修士課程2年目で起業しました。東大大学院入学は「起業の手段」でしたね。

上田:ブロックチェーンが流行り出したのが2010年台、ビットコインが出始めたのが2009年でした。いわゆるブロックチェーンといったものはその頃……。

施井:なかったですね。それに起業したときは、作品の売買ができて、買った人が二次流通を同じサイト上でできて、元のアーティストに還元金がいく、といった仕組みをウェブアプリケーションで作っただけで、ブロックチェーンと関わるとは思っていませんでした。でも、そこで買った人がもし他のネットオークションサイトで売ったら、還元金がいかなくなってしまう、というのが課題でした。ブロックチェーンなら、他のサービスに売買が行き渡っても還元金がいくとか、そういったことができるんじゃないか。

上田:そこにブロックチェーンをはめ込めば、自社サイトの外の売買にもリーチできると。

施井:そうです。世界中のアートに関わる機関がつながっていけば、売買の管理もお互いにできて、送金もできるだろうと。

上田:ひとつでもスタートバーンのシステムに乗らないと、それはできないわけですか?

施井:システムと完全連動するにはブロックチェーンネットワークである「Startrail」に接続する必要があります。でももちろん世界中が繋がるのは不可能だという前提で設計してます。あと、そもそもStartrailというのは自社開発のシステムだけど脱中心的に運営するために会社からは切り離していて、それこそスタートバーンが潰れても数百年動き続けるようなインフラを目指しています。なのでスタートバーンのシステムに乗ると言ってもいわゆるプラットフォームとは性質が異なります。
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文・構成=石井節子 写真=帆足宗洋 サムネイルデザイン=高田尚弥

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