コロナ危機は「自然界の逆襲」人類がグローバル依存から脱却すべき理由

国立環境研究所の生物学者・五箇公一


グローバリズムが産んだ、経済の「脆さ」


日本は現在、資源の大半を海外から輸入している資源依存大国です。しかしかつてはそうではなく、この狭い島国で約1万年もの間、自立して生活してきた国だったのです。

歴史上特に注目すべき循環型社会を維持していたのが江戸時代です。地方ごとに独自の経済構造を持ち、江戸を中心に緩やかにつながる地方分散型社会では、隔離された環境の中で資源を回す知恵があった。それでいて完全に外部を遮断するわけではなく、大陸とも適度に交流していたため、文化も隆盛を極めました。

生物の世界には、それぞれの環境に適応した集団が分散して生息することで、どこか1つの集団が潰れたとしても他の集団からの供給が働き、種全体としては生き残れるという個体群構造があります。

江戸時代もまた、地域ごとに最も適応度の高い社会を作り、経済を分散させることによって全体の適応度を上げていました。ところが、いま世界中で進行しているのは、地方分散型社会とは真逆の、画一化としてのグローバル化社会です。

これは生き物の世界に置き換えて考えると非常にまずい状況です。全ての遺伝子がミックスされると変異(個体ごとの形質の違い)がなくなり、突発的な環境の変化とともに種が絶滅する恐れがあります。リーマンショックで世界中が一気に混乱に陥ったのと同じ構図です。

グローバリゼーションの弊害は、何か問題が起きると全体が潰れかねない経済の脆さです。社会全体の持続性を高めるためには、グローバル化とは異なる方角に舵を切らなくてはなりません。

五箇公一 オンライン取材
取材は五箇の研究室とつなぎ、オンラインで行った

「地産地消」が、人間社会の持続性を高める


生き物の生存は本来、持続して遺伝子を残し続けることが最大の目的です。一気に増えて一気に滅びるような生き方をしている生き物は、成功者とはいえない。人間もそうした生態系のセオリーに則って、社会全体の持続性を考えるときが来ています。

人間社会が次に向かうべき方向性はローカリゼーションです。かつての日本社会が持っていた持続性を、現代社会にどう適応させるかが課題となります。

近代社会では都市に人が集中しましたが、これだけITやインフラが整ったいまでは、地方で暮らすディスアドバンテージはどんどん小さくなってきています。地方に分散した人が地域ごとに経済を自立させ、お互いに緩やかにつながるネットワークを構築する。このシステムは国単位でも応用可能です。

しかし、いまの社会を一気に変えるのは難しいでしょう。グローバリゼーションから脱却するためには、まずは個人の行動から変えていく必要があります。

私は「地産地消」の実践から始めることを推奨しています。地方で採れたものを地方で消費し、そこで経済が流れる社会を作る。田舎なら地元のものを優先し、日本なら日本のものを優先する。これが持続性の高い社会を実現するために、個人レベルでできる第一歩です。
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文=一本麻衣

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