自治体の実施する市民協働の取り組みは、「お金がないので、一部はボランティアで」と、平日、市民に役所へ来てもらうケースがいまだに多い。しかし、河尻は「それだと続かない」と指摘する。
「そもそも、まちのために無償で動いてくれというのは、わがままで傲慢な話。自治体職員は仕事としてやっているけど、市民の方々には他の仕事がある。大事なのは参加者へのリターンを意識することです。そうしないと『二度とやりたくない』『市にばかり都合のいい』と、関わってくれる貴重な市民を遠ざけてしまいます」
バトル参加をきっかけに起業した人も
ただ、シビックパワーバトルは、年度途中に開催が決定したため予算がなかったので、市民の自主性に頼らざるをえなかった。そこで、河尻は“別のリターン”を意識したと明かす。
「ある程度生活に満足している市民の方にはリターンを返しづらいので、自分がまちで動くために何か足りないとか、何かが欲しいと思っている人に声をかけるようにしています。シビックパワーバトルのリーダーも、働きながら地域活動をやっていた方です。リーダーは大変な役割ですが、地域でさらに活動しようと思ったら、行政や市民とパイプがあるほうがうまくいく。『行政や地域の人とつながりができる』というメリットを伝え、リーダーの打診をしました」
実際、この時、声がけしたリーダーは、イベント自体の実行委員長になり、後日、会社を辞めて流山市で起業することになったという。結果的に、河尻が提供した“リターン”が生きることとなった。
自治体職員のなかには、自らが提供できる価値やリターンに気づいていないケースも多い。河尻は、日々、市民と心を通わせ、相手が何を望んでいるのかを突き詰め、さらに自らが提供できるリターンを熟知しているからこそ、さまざまな事業を動かすことができているのだろう。
連載:公務員イノベーター列伝
過去記事はこちら>>