今年の世界長者番付で初めてランク入りを果たした、クラウド型ビデオ会議サービス「ズーム(Zoom)」の創業者でCEOのエリック・ユアン。ズームは一躍、withコロナ時代に欠かせない、リモートワークの“救世主”となったが、認知度の高まりとともに、懸念や不安も指摘されている。いま一番アツい会議ツールの裏側を本人に聞いた。
クラウド型ビデオ会議サービス「ズーム(Zoom)」のエリック・ユアンCEO(50)の子供たちはようやく、父親の仕事に関心をもつようになったという。
「どんな仕事をしているか、娘に聞かれたことがなかったんです。それが初めて、『パパ、ズームで手を挙げるとき、どうすればいいの?』と聞かれましたよ」
ユアンは笑顔でそう話す。大学1年生になった息子も使い始めたそうだ。
新型コロナウイルスが世界を席巻した結果、都市は封鎖され、学校は閉鎖に追い込まれている。そうしたなか、ズームは仕事で必須のツールとして台頭。学生はオンライン講義を受け、人々はバーチャル誕生パーティーやズーム飲み会、ヨガレッスン教室を通じてつながっている。
3月28日(土)には1日だけで、全世界で300万人近くがズームのアプリをスマホにダウンロードした。モバイル調査会社アップトピアによると、これはズームにとっての最高記録で、2019年4月にズームが行ったIPO(新規株式公開)以降、5900万人以上がダウンロードしている。
ズームの経営状況も大幅に変わった。IPO以降、株価は143%も上昇している。3月中旬、S&P500が11%も下落するなか、44%を維持。同社の時価総額は420億ドルに達した。ユアンも純資産が55億ドルとなり、今年のForbes U.S.のビリオネアリスト(293位)に名を連ねている。
もっともパンデミックの前から、ズームは好調だった。サムスンやウォルマートを含む、少なくとも8万1000社の顧客を抱え、収益は6億2300万ドルに上る(20年1月までの会計年度)。
ズームが躍進した背景には、ユアンがパンデミックを受けて19カ国以上の教育関係者に無料でズームを提供する決断を下したことにある。これに加え、無料の基本プラン(100人の参加者までホスト可能、無制限の1対1ミーティング、グループミーティングは40分まで)を使っているユーザーがいる。
ズームはこの無料サービスでどの程度のコストを負担しているかを明かさないが、米投資会社スティーフルのアナリスト、トム・ロデリックは3000万〜5000万ドルだと見積もっている。
「そんなに難しい決断ではありませんでしたよ」と、ユアンは振り返る。
「このような特異な状況下では、コストや粗利、処理能力など二の次なのです」