今月8日、トランプ米大統領と安倍晋三首相は電話会談を行った。外務省はホームページで「両首脳は、新型コロナウイルス感染症に関し,両国内の状況や感染拡大防止策,治療薬やワクチン開発,経済の再開に向けた取組等における日米協力や情報共有について意見交換を行い、引き続き日米間で緊密に連携していくことで一致しました」と説明した。
ただ、日米関係筋によれば、トランプ氏はWHAへの台湾参加やWHO改革に強い意欲を示していたという。台湾のオブザーバー参加などに向け、日米で共同戦線を張ろうという呼びかけだった。安倍首相は、トランプ氏の考えを否定することはしなかった。同時に、トランプ氏と共同行動を取るという言質も与えなかった。関係筋の1人は「トランプ氏は、安倍氏の発言の正確な意味を理解していなかったかもしれない」と語る。
トランプ氏は4月14日、ホワイトハウスでの会見で、WHOへの拠出金の停止に言及した。すでにこのときから、日本政府内ではトランプ氏の戦略を危ぶむ声が出始めていた。米国はWHOへの最大の拠出国だ。昨年はWHO年間予算の約15%にあたる4億ドルを拠出している。外務省は非公式に、米側に対して「米国が拠出を停止すれば、隙間が生まれる。そこに中国が進出してくるのではないか」と懸念を伝えていた。
案の定、WHAで演説した習近平中国国家主席は新型コロナ対策のため、約20億ドルを拠出すると表明した。日本もWHOなどに2.7億ドルを拠出する考えを明らかにしたが、中国に太刀打ちできる金額ではなかった。
日本にしてみれば、国際機関への中国の進出を嫌がってきたのは、誰を隠そう米国その人だ。今年3月、特許権などを扱う国際機関、世界知的所有権機関(WIPO)の次期事務局長の選挙があり、中国が擁立した現事務次長が大差で敗れ、米国が支持したシンガポール特許庁長官が当選した。日本は昨年10月、特許庁出身のWIPO上級部長の擁立を決めていたが、今年2月になって撤退を表明した。
別の日米関係筋によれば、米国が当初から、日本に候補者擁立を諦め、シンガポールの候補に一本化するよう迫っていた。米国は「日本とシンガポールが候補をそれぞれ立てれば、中国が漁夫の利を得る」「知的所有権を侵害している国の出身者が、知的所有権を守る国際機関のトップに就くなんてブラックジョークだ」などとして、強い圧力をかけていたという。
米政府内には、国際機関で中国出身者がトップを占めるケースが増えていることへの危機感が強まっていたという。