しかし、経営者がデジタルテクノロジーを深く理解し、経営戦略に取り込むことができなければ、DXは「絵に描いた餅」「宝の持ち腐れ」になってしまう。実際に、経営者がDXを推進したのはいいがIT部門に丸投げして成果は乏しいまま……というケースも見られる。
そうした懸念を解消するのが、デロイト トーマツ グループのモニター デロイトが提供するワークショップ「Tech for the C-Suite」だ。企業の経営課題やビジョン策定を担う「CxO」自らがテクノロジーを本質的に理解し、率先して戦略に取り込み、事業を加速させることを目的としている。
作業効率化や課題解決のためにテクノロジーを活用するだけでは、今回の危機を乗り越えるには不十分だ。経営戦略にテクノロジーを掛け合わせ、真の意味での新事業を生み出し、企業の成長を力強いものにブーストさせるのが「Tech for the C-Suite」の目指すところだ。
CxOが「Tech for the C-Suite」で得られるメリットはなにか。そしてテクノロジーによって従来の経営戦略の策定にどのような変化をもたらすのか。モニター デロイトで「Tech for the C-Suite」を手掛けるシニアマネジャーのスワガー恵理に聞いた。
9.11後、アメリカで起こった経営戦略の変化
歴史を振り返ると、大規模な疫病や災害が起こった後の社会経済は大きな変動にさらされる。14世紀のヨーロッパではペストの大流行により中世の封建社会が崩壊し、近代化の端緒となった。そして第一次世界大戦中に起きたインフルエンザ「スペインかぜ」の際には、NYダウは大幅な下落と上昇が発生、やがて世界大恐慌へと向かっていった。
ここ数十年に限っても、石油ショック、湾岸戦争、アメリカ同時多発テロ、リーマンショック、東日本大震災など、日本はもちろん世界はさまざまな試練にさらされ、そのたびに個人消費の低迷、株価の乱高下に翻弄される。
アメリカ同時多発テロの発生当時、現地で暮らしていたスワガー恵理によると、9.11後のアメリカ経済は、大きな転換を遂げたと振り返る。
「テロで企業活動に大きな影響が発生した際、どう対処するのか。その答えは、残された人が問題なく引き継いで仕事ができる『社内の情報共有』という地道なものでした。今の日本で進んでいる『働き方改革』が、否応なしに一気に進んでいったのです。業務の自動化をはじめとしたテクノロジーの導入はより活発になり、経営もテクノロジーありきで戦略を立てることがスタンダードになったのです」
経営者に求められる“デジタルトランスフォーメーション”戦略
新型コロナ危機を通じて、日本も有無を言わさずDXへの対応を迫られることになる。社会全体が最先端のテクノロジーを使いこなすのが当たり前になることが確実となった今、会社運営の舵を握る経営者は、「ポストコロナ」に向け、DXを見据えた事業展開に取り組まねばならない。
「Tech for the C-Suite」では、テクノロジーがビジネスに与える影響について経営目線での見解を提供し、どのように活用すべきかといった戦略を、経営者と一心同体となって考える。
ワークショップで取り扱うテクノロジーの例
このワークショップ、既存の経営者向けコンサルタントワークショップと、どこが違うのか。
「一般的なワークショップやセミナーは、参加者が経営などの課題がわかっていて、それを解決するためのものですが、『Tech for the C-Suite』は、CxOに対し、各テクノロジーの特性について正しい理解を促し、それを基に経営戦略に落とし込んでいただくためのものです」
経営者からヒアリングし、提案書をまとめて完結する一方的なコンサルティングではなく、常にコンサルタントとCxOがテクノロジーを介して寄り添い、恒常的に経営戦略をブラッシュアップさせるようにする。
「課題解決型ではなく、いわば『テクノロジー主導型』の経営戦略を追求するワークショップです」
テクノロジーの重要性はわかっていても、経営戦略とテクノロジーがきちんとクロスしているのか。新しい技術について話し合い、個々のストラテジックトランスフォーメーションをサポートする。
このワークショップは、参加者がコンサルタントから経営診断やアドバイスを聞く一方通行の講義ではない。モニター デロイトの強みである戦略策定力、グローバルネットワークによる幅広い知見・経験・実績、高い専門性を有する人材を総動員して練り上げた、実現性の高い戦略を提案している。そのひとつ、「Go Transform」では、Google Cloudとの連携により、単なる戦略立案だけでなく、導入から運用までEnd-to-Endのサポートが期待できる。
「デジタルテクノロジーを主導して推進するのは今やIT担当ではなく、経営者、CxOであるべきです。そして『よくわからないがとりあえずデジタル化しよう』ではなく、自社に適したテクノロジーを採用すれば、資金や時間を無駄にすることなく、目指すところに早くたどり着けます」
一方で、DXが昨今の流行だからといって、深く理解しないまま飛びつくよりも、デジタルのインフラを整え、地固めを先にすべきだというのがモニター デロイトの提案でもある。
「世界でDXが主流となっている今、日本は大きく遅れを取っていることは否めません。書類の電子化や電子メール、アプリを導入する「アナログからデジタルへの変換」を意味するデジタイゼーション(Digitization)、そして従来のビジネスモデルと働き方を変革し、新たな収益源や意思疎通の方法、価値、効率性を創出するために革新的な新技術を活用するデジタライゼーション(Digitalization)という2つのステップを踏んでいない日本企業がまだ数多くあるからです」
デジタイゼーションとデジタライゼーション、そしてその先にあるDXの違いについて、スワガーはこのように例えた。
「紙と鉛筆(紙ベースの書類文化、印鑑承認など)をやめてまずパソコン上で容易に扱えるデータにするのがデジタイゼーション、インターネット、PC、業務アプリを使いこなすのがデジタライゼーションと言えばわかりやすいでしょうか。それらに対してDXはモバイルアプリ、クラウド、AIといったテクノロジーで業務をさらに効率化したり新しい事業を創出すること。ウーバーやネットフリックスはDXの象徴的存在です。
日本の企業が紙と鉛筆から一足飛びにDXを実現することは難しい。だからまずはテクノロジーを理解した上で、デジタイゼーションとデジタライゼーションの2つのステップをトップダウンで進めていくべきです」
世界からの遅れを取り戻すためにも、まずは一旦基本に立ち返り、ロジカルに段階を踏んでデジタルテクノロジーを導入すべきだと、スワガーは考える。たとえ遠回りしても、最先端の技術に飛びついて失敗するより成長速度は速まるという。
「『Tech for the C-Suite』はデジタルの基礎固めをサポートし、End-to-Endで寄り添います。私が9.11で感じたような、否応なしに変化する時代が来るのを目前にした今だからこそ、日毎に進化するデジタルテクノロジーにどう対応するのか、CxOが基本から理解する必要があるのです」
経営者に寄り添い、共に「ポストコロナ」の混乱を乗り越えていく
ワークショップにかかる日数はおよそ1日程度。デロイト トーマツ グループ内のイノベーション創発施設「Greenhouse」を使用する以外にも、密閉・密集・密接の「3密」による新型コロナウイルスの感染を避けるためZoomやSkypeなどを通じて実施できる体制も整えている(「Go Transform」はGoogleオフィスで行われる)。また、事前のヒアリングに基づいて必要な分野の専門家をキーノートセッションに招くほか、興味のあるテーマや具体的な事例の紹介など、テクノロジーに疎いCxOにも、具体的でわかりやすい、カスタマイズされたソリューションを提供する。
ワークショップの流れ
「日常では集中的にデジタルテクノロジーをキャッチアップする時間を確保することは難しいでしょうし、進化のスピードについていけず苦手意識を持っている人も少なくありません。じっくり時間をとって、テクノロジーをベースにした新たな経営戦略を策定する。ワークショップの内容は、CxOのそれぞれの事情に合わせて組み立てます。まずは腹を割って、思うところを話してください」
忙しい日々を過ごしていた時には考えられなかったことも、中長期に向けた展望をじっくりイメージすることも、新たな挑戦に出る準備をすることも可能になる。混乱の世界を読み解き生き残るために、経営者はどうあるべきか? その答えを導き出すきっかけは、「Tech for the C-Suite」で見つかるはずだ。
Tech for the C-Suiteに関する詳細情報は、モニター デロイトのページをご参照ください