必読の下戸市場論『ゲコノミクス』 飲まない人も共に楽しめる場へ

ロンドンでのノンアルコールカクテルマスターコースの様子(Photo by David M. Benett/Dave Benett/Getty Images for Everleaf Drinks)


思えば、下戸向けの飲み物と言えば、ノンアルコールビール、ウーロン茶、ジュースくらいしかない場合がほとんどで、それらに高級品は存在しなかった。一方、酒の質を極めていけば、もちろんその値は青天井である。「ノンアルコール飲料にアルコールのような高値はつけられない」というのは単に売り手側の思い込みであって、酒以外の、たとえば茶の質を求めていって、なおも安値のままであるというのはありえない。

ノンアルコールは儲からないという思い込みを打破する新しい商品開発の動きは、高級茶や工夫を凝らしたノンアルカクテルの提供などすでに始まっている。


「モクテル」と呼ばれるノンアルコールカクテルにも流行の兆しが(Photo by Jim Davis/The Boston Globe via Getty Images)

下戸を自認する人はぜひこの本を手に取っていただきたい。こんな思いを抱えた人は自分一人ではない、と心強くなるだろうし、同席する人やお店に対して「自分はこうなんです」「こんな取り組みも始まっているんです」と自己開示の手段も与えてくれるに違いない。おまけに、特別に下戸の人向けに用意されたスペシャルメニューの情報を見つけて、行きつけのお店のレパートリーを増やせるかもしれない。

新時代の人間関係と酒


「飲み」は様々な問題が交差する、多面的な場である。この本の射程は新市場の開拓というところにとどまらない。

例えば、企業は従業員との関係性をどのように再編していくべきなのか。縦の関係だけでなく、人の横のつながりは今後どうなっていくのか。

「酒がなければ腹を割れない」というコミュニケーションは、終身雇用という労使の関係性が見直され、また、職場のダイバーシティが進展するなかでは、どんどん不自然なものにならざるをえない。そうした方法論に依存すること自体リスクをはらむ時代に突入している(コンプライアンスだけでなく、「健康経営」というキーワードにピンとくる、総務・人事に関わる人にはこの本をおすすめしたい)。

そうした流れに加えて、新型コロナウイルスにより様々な業界で営業の縮小が強いられている今、社会にはこれからどのような変化が起きるだろうか。

飲食業に関わる意識の変化でいけば、おそらくは流行収束後も、多人数がひとところへぎゅうぎゅうになって集合するというあり方よりも、間隔を保てるゆったりしたスペースに少人数で行くというあり方の方が好ましいということになるはずだ。

スペースの性質の変化は、飲食の選択にも影響する。前者ではすぐに多人数の注文を揃えるために「全員、とりあえずビール」であったものが、その制限が弱まることからファーストドリンクからそれぞれの好みを反映したものが選ばれる傾向に流れるに違いない。

流行中のビデオ通話を使った「Zoom飲み」においても、すでにその兆候は現れている。各自で飲み物を用意せざるを得ないZoom飲みで、それぞれ思い思いのドリンクを仮想の場で持ち寄って会話を楽しんだ方も多いのではないだろうか。


世界に広がる、多様な「Zoom飲み」(Photo by David Silverman/Getty Images)

本稿の筆者の例で恐縮だが、某講座に参加していた私は毎週の講義後の飲み会を楽しみにしていたところ、コロナ禍で講座はビデオ通話に移行。毎回飲み会をしていたからとZoomによる慰労会を企画したところ多くの受講生に集っていただいた。
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文=縄田陽介

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