経済・社会

2020.05.22 18:00

その関係、密です? 問われるメディアと権力の「ソーシャルディスタンス」


到底、適切な取材とは言えない


ここで黒川氏の立場を踏まえた主な問題点を整理しておきたい。

1. 政府が不要不急の外出を控えるよう国民に呼びかけていた中で公務員の立場でもありながら外出し、繰り返し「3密」の状況をつくった
2. みずからの定年延長や検察庁改正案について国会で議論されていた中で緊張感と自覚に欠ける
3. 刑法の賭博罪に問われかねない。検察ナンバー2の立場としても極めて不適切
4. メディアと権力の癒着(少なくとも3年にわたって新聞記者らと賭けマージャン)
5. 産経が手配したハイヤーを使用

上記のうち、この記事では、とくに4について考えたい(5について、産経と黒川氏の双方への批判も当然、理解できる)

「賭けマージャン」は刑法の賭博罪に問われるケースがある。

黒川氏の立場や置かれていた状況を考えると、なおさらありえない行動だ。とくに5月13日は、国民の代表である与野党の国会議員が、まさに検察庁法改正案について真剣に審議していた。黒川氏は、その夜に賭けマージャンに興じていたことになる。緊張感と自覚に欠ける行為だ。

黒川 麻雀
Getty Images

記者らについては、刑法上の問題はもちろんのこと、報道倫理・記者倫理の観点でも許されない行為だ。これは適切な「取材」とは到底、言えないだろう。

しかし、ここにいたる状況について、多くの記者の方は、多かれ少なかれ想像できるのではないだろうか。

正直に言うと、黒川氏や記者ら計4人の集まりそれ自体については、私はほとんど驚きはなかった。(すでにこの時点で、読者のみなさまからはツッコミを受けてしまうかもしれないのだが…)

検察担当記者(P担)にとって、取材対象である検察幹部や特捜検事、検察事務官などと関係を構築し、(捜査)情報をとることが主な仕事となる。司法記者クラブには大手新聞社・通信社、NHK、民放各局が加盟する。各社のP担は朝も夜もなく取材に駆けずり回り、捜査情報の先取り(特ダネ)競争にしのぎを削る。

(公式発表前のこうした“前打ち報道”に何の意味があるのかという疑問については当然で、これだけでさまざま議論があるのだが今回は割愛させてほしい。少しだけ触れておくと、私の考えでは、例えば「きょう逮捕へ」という情報すら取れないようなら、真のスクープは取れないという感覚はある。「きょう逮捕へ」の繰り返しの延長線上で放たれた調査報道はいくつもある。「きょう逮捕へ」という情報をとって報じるかどうかはさらにまた別の問題がある。報道で被疑者側が捜査の動きを知ることで証拠隠滅や逃亡したケースも過去にあるからだ。真犯人の自殺は最大の証拠隠滅である。こうした事情から、ここ数年ではとくに、捜査当局が逮捕状を用意して任意同行を求めた直後のタイミングに、速報としてスクープを狙うケースが増えていると感じる)
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文=島 契嗣

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