スマホが「現実空間とミラー・ワールドを融合させる扉」になるとき

Colin Anderson Productions pty ltd/Getty Images


スマホのカメラに新しいトレンド


空間コンピューティングにおけるセンシングを行うセンサとしては、まず、「カメラ」が挙げられます。身の回りのあらゆるものの情報を簡易に取得できるセンサとして、カメラほど汎用的な道具はありません。

形状などの視覚的情報の取得はもちろんですが、室温計を撮影すれば温度もセンシングできるわけで、幅広い情報をカメラでセンシングすることが可能です。実際に、xRヘッドセットには多数のカメラが実装されています。

多数のカメラと言えば、最近のハイエンドスマートフォンは、ほとんどカメラ競争と言ってもよいほどマルチカメラ化が進んでいますが、これはユーザーに面白い写真を撮ってもらおうというだけの目的に留まりません。

iPhoneにも超広角カメラが搭載され、ハイエンドスマホと言えば望遠カメラは当然のこと、超広角カメラが搭載されているのが当たり前となりつつあります。超広角カメラは、より広大な空間情報を切り取ることができるという意味で、空間コンピューティングを実現するうえでは、望遠カメラよりも意味があると言えるでしょう。

3月に発表されたiPad Proには、「LiDER(ライダー、Light Detection and Ranging)」というスキャナーが搭載されました。これは魚群探知などに使われるレーダーのような機能です。

魚群探知のレーダーは、海中の魚群などの対象に電波を飛ばし、その反射波を計測することで魚群の方向や距離、その周辺の海底の形状を捉えますが、LiDERでは電波のかわりに光を用います。

電波よりも周波数の高い(波長の短い)光では、より詳細な情報を取得できることが想像できると思います。たくさんの光を空間に放ち、空間に存在する物体からの反射を捉え、物体までの距離情報を大量に測定することで、物体の形状を把握するという空間スキャナーです。

このiPad Proを含めて、最新のハイエンドスマホには、光で距離を計測する「ToFセンサ(Time of Flight)」が搭載されています。カメラでは空間に何があるかはわかっても、対象物までの距離はわかりませんが、ToFセンサなら対象物が空間内のどこにあるかを3次元的に把握することができます。

スマートフォンのカメラは進化を続け、デジタルカメラ、特にコンパクトデジカメ市場の破壊者となりました。いまやカメラ機能は、電話機能よりも欠かせないものになっているのではないでしょうか。

5G時代では、そのトレンドは加速します。なぜならスマートフォンのカメラはもはや「思い出を切り取り保存する」ものではなく、「現実空間のデータをリアルタイムで取得し続ける」ものであるからです。ToFセンサの搭載はそのトレンドを裏付けています。

いつでもどこでも通話ができる携帯電話は、いつでもどこでもデジタル空間にアクセスできるプラットフォームであるスマートフォンになりました。5G時代以降のパーソナルデバイスがスマートフォンであり続ける保証はありませんが、それが「現実空間とミラー・ワールドを融合させる扉」となるのは間違いありません。

連載:5Gが拓く未来
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文=亀井卓也

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