8割の根拠は、厚生労働省クラスター対策班のメンバーで北海道大学の西浦博教授の計算に基づくもの。通信業者の位置情報などを活用して、一人当たりの接触頻度を調べることで、感染拡大の状況を推定できるという。「新規感染者数」は感染してから陽性の診断を受けるまでおよそ2週間の時間差があるが、「接触」はリアルタイムに監視することができる数少ない指標でもある。
この接触の評価に4月から関わっているのが民間のデータ分析会社ALBERT(アルベルト)の社員の有志だ。チームを率いるのは32歳のデータサイエンティスト、中村一翔。これまで官庁との大型プロジェクトをしたことがなかったベンチャー企業がなぜ、国の新型コロナ対策の要ともなる重要な任務に関わることになったのか。そして、今回のプロジェクトから見えてきた日本のデータ戦略の課題とは──。2回に分けて紹介する(2回目は『コロナ後も「絶対にデータ分析はやめてはいけない!」初動の悔い、第2波の教訓に』を参照)。
3月下旬、アルベルトの代表取締役社長の松本壮志は、厚労省の専門家会議の報告を見ていた。刻一刻と増える感染者数。「間違い無く裏側でデータ分析が走らないといけない」と松本は考えた。欧米では新型コロナ対策で国が民間のデータ分析会社と手を組んだ、との報道もあった。アルベルトにも手伝いができるのではないかと思い、データソリューション本部プロジェクト推進部副部長の中村と話をしたのが始まりだった。
2005年に設立されたアルベルトは、東証マザーズ上場のビッグデータ分析会社。約200人のデータサイエンティストを抱え、産業を超えた異業種の企業間のデータ統合と分析コンサルティングが強みだ。トヨタや東京海上日動、KDDIと資本提携し、接触の計算に使われる通信事業者の位置情報を扱った実績がある。
松本は厚労省に連絡し、4月3日に面会を取り付けた。面会当日、アルベルトからは松本と中村ら計3人が同席し、その足で厚労省内のクラスター対策班(以下、クラスター班)の部屋に向かうことになった。