きっかけは同社の松本壮志代表取締役社長が厚労省にアプローチしたことだったが、「もう少し早く動けばよかった」と振り返る。複数の企業経営を経てデータ分析会社の社長に異色の転職をした松本が見た、日本のデータ戦略の課題とは?
──松本社長は厚労省にアプローチした時、海外の動きを意識していましたか。
民間のデータ分析会社、パランティアが英NHSや米政権と組んで接触追跡のツール開発に取り組むと報道があった。両国とも政府として対応が難しいものは民間に速やかに移譲する。法的な規制やさまざまな制約があっても、政府のリーダーシップで一気にやるという突破力があり、有事における初動が早かった。
日本は一般競争入札があって、要件を決めてと実際に始めるまで数ヵ月かかかるイメージだ。一方、我々は身軽な会社なので、意思決定スピードも早く、機動性を活かした対応で役立てると思った。ただし、我々としてももう少し早くコンタクトをしておけばよかったという反省がある。クラスター対策班(以下、クラスター班)ができたのが2月で、その頃からニュースを見ていて気になっていた。
民間の進出は日本で慎重になりがち。こういう有事の際は、政府側から声がかかるのを待つのではなくて、機動力があるベンチャー側から「こういう技術を活用しましょう」など提案をすることが重要だ。企業サイドからの積極的な介在が今後は強く求められると思う。
──今後、この経験をどう活かしていくべきでしょうか。
今回のコロナのデータ分析を見ていて思うのは、たとえコロナ問題が収束しても絶対に分析をやめてはいけないということだ。
東日本大震災の時、災害発生後のデータが確実に分析されたかというと、そうでもないと思う。もちろん助成や復興支援といった政策は打たれたが、当時どういう形で経済的インパクト、インフラへのダメージといった被害が拡大したのか、各種施策の効果がどの程度確認できたのか、そして、復旧までの道のりはどのような軌跡であったかということに関してのデータはほとんど目にすることはない。おそらく、各種データ自体は存在していると思うが、一元的/統合的には管理できていないため、それらを定量的に示すことが困難であると推察している。
今回の場合では、例えばコロナ感染者数が増えたエリアと失業者が本当に相関しているのか、雇用助成金制度のエリア別効果測定等も踏まえて、どの産業から失業や休業が多く出たのか、といった分析を絶対にすべきだ。そうしないと、次の有事があった場合にまた不眠不休状態で「みんなの精神力で乗り切るぞ」ということになってしまう。
データはたくさんある。たとえば東日本大震災の例でも、データを集めようと思えば集められるだろう。しかし、集めてもフォーマットなどが混在する多種多様なデータを分析する技術が必要だ。そこを我々が支援できる。将来の有事にどう備えるのかが重要になってくるので、厚労省だけでなく中央官庁に対しても提案していきたい。