S看護師の次の供述からは、焦りと苛立ちが感じられる。
「アラームが鳴っていたら、気がつかないはずがない。仮眠をしていたKさんも起きてきたはず。Kさんは鳴っていたと言いましたか? 隣室には子供の付き添いのお母さんがいたはずです。その人に確認してくれましたか? 私は本当にどうしたらいいんですか。なぜアラームが鳴らなかったかは分からない。抜けたら鳴る機械です。私も不思議でならない。でもアラームは鳴っていなかったのです。
西山さん本人から、警察から『呼吸器が鳴っていたんやろう』と決めつけた言い方をされて悩んでいる、同じ事ばっかり聞かれているというメールが入り、西山さんもつらい思いをしていると感じた。私もその気持ちが分かる。西山さんは電話で、警察から『鳴っていたんやろう』と机をたたかれ、そればかり聞かれて頭がおかしくなってくると話していた。『負けないでね、しっかりした気持ちを持ってね。私も頑張っているから西山さんもがんばってね』と答えている。
この取り調べは私が『呼吸器が鳴った』と話すまで続くのですか。私は嘘を言っていない。信じてもらえるまで言い続ける。(取調官がポリグラフ=嘘発見器=の話を持ち出すと)そんな良い機械があるのだったら、ぜひ受けたい。その検査ではっきりさせたい」
1年がかりで、県警の筋書きが“成立”
これらのS看護師の捜査報告書からは、西山さんの生々しい“悲鳴”が聞こえてくるようだ。
確認のため2003年5月から1年間に及んだ取り調べでのS看護師の証言を振り返ると、次のような変遷があった。
2003年5月 患者が死亡した当日「鳴っていない」と証言
2003年7月 「鳴った」と言わされるも署名を拒否
2004年3月 「(鳴ったと言ったのは)長時間の取り調べに疲れたから」と説明
2004年5月 「鳴ったと話すまで続くのか」と抗議
実は、2004年5月にはすでに西山さんは県警本部の捜査1課から新たに投入されたA刑事に「わしらをなめとったらあかんぞ。アラームは鳴ったはずや!」と怒鳴られ、その脅しに抵抗することができなくなり、「鳴りました」と虚偽自白させられていた。
患者の死からおよそ1年後。たたき割り捜査で言わせた「アラームが鳴った」という西山さんの虚偽自白によって、県警が描いた「呼吸器のチューブは外れた→アラームが鳴った→看護師が聞き逃した→対応が遅れて患者が死亡した」という短絡的な筋書きは、1年がかりで“成立”した。
不可欠だったピースは、脅迫まがいの取り調べで得たものだ。そして、捜査は業務上過失致死の立件に向けて加速していくことになる。
連載:#供述弱者を知る
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