滋賀県警は第1発見者、S看護師(当時35)の「呼吸器のチューブが外れていた」という供述から、早い段階で筋書きを描いた。
それは「外れていた→アラームが鳴ったはず→看護師が居眠りしていてアラームを聞き逃した→対応が遅れて患者が死亡した」という、誰かを悪者に仕立てる短絡的なシナリオだった。
(前回の記事:強引な捜査で歩行困難になった看護助手。病院は県警に抗議した)
県警は、業務上過失致死事件での立件に欠かせない「アラームが鳴った」という自白を、当直勤務だったS看護師と看護助手の西山美香さんから引き出すことに、1年以上にわたって執着した。
実は、最初に「鳴った」という虚偽自白を引き出されるのは、供述弱者の西山さんではなく、S看護師の方だった。
冤罪の被害者はS看護師だったかもしれない
2016年9月に大津支局で私に事件の構図を説明した角記者は「この事件で虚偽自白をしているのは、西山さんだけじゃないんですよ」と話した。
角:「去年、弁護団が会見を開いたときに、報道陣に『虚偽自白を強いられた被害者は2人いる』と捜査手法の問題を強調しているんです。最初に『アラームが鳴った』と言わされたのは看護師の方なんです」
秦:「署名の段階で拒否した、と。でもさ、アラームを誰も聞いていないんだから、警察は、鳴らなかった可能性は考えなかったの?」
角:「まったく考えてないですね」
秦:「最初から、看護師が居眠りして聞き逃した、という医療事故の一点張りか」
角:「そうです。『外れていたなら、アラームは鳴ったはずだ』とS看護師と西山さんを徹底的に問い詰め続けるんですよ」
秦:「鳴ってない以上『聞いていない』と言うしかないよね」
角:「看護師が『鳴った』と言わされたのは、かなり早い段階で、署名の段階で拒否したんです」
秦:「署名を拒否してなかったら、あっという間に業務上過失致死で立件されて、一件落着していたってことか。恐ろしい話だな」
角:「冤罪の被害者は、場合によってはS看護師だった可能性もあるんですよ」