今回は米Forbes誌の名物編集者、アレックス・コンラッドが敢行した、巨額の赤字で揺れるソフトバンクグループCEOの孫正義の独占インタビューを一部お届けする(取材は3月)。
「過去は忘れてください」
3月上旬、マンハッタンのレストラン。孫正義は、隣に座ったブラックロックのラリー・フィンクを含む運用総額数兆ドルの聴衆──世界的大手のアセットマネジャー20人──を前にそう言った。
「厳しい時期ではあります」と、“聴衆”の目を見ながら孫は認める。この前日には、Forbesにもう少し長い説明を行っていた。「ウィーワークを高く評価しすぎたし、創業者を信頼しすぎた。しかしそのウィーワークでさえ、新たな経営者と新たな事業計画をもってすれば、まずまずのリターンを上げられると確信しています」。
20人の聴衆に向け、孫はビジョン・ファンドの出資先企業9社に次々とプレゼンをさせていく。「これらの会社はいま、どこよりも先行している。これは始まりです。これから何が起こるのかを皆さんに見ていただきたい」。TikTokを運営するバイトダンス、韓国のeコマース最大手のクーパン―彼らは確かに有望だ。孫は続ける。
「ソフトバンクの状況は苦しい。そう見られているようですが、私たちは変わらず成長を続けます」
言うは易く、行うは難し。
ソフトバンクグループ(以下ソフトバンク)が仕掛ける1000億ドル(約10兆円)のビジョン・ファンドは、間違いなくいま世界一「詮索」を受けている。当然だ。過去3年間にわたり、孫は88ものスタートアップに、1社1億ドル以上の巨額投資を、かなり大胆な価値評価に基づいて行ってきた。そして、現実は計画どおりには進んでいない。
例えばウーバー。ビジョン・ファンドは出遅れ気味に同社に出資し、何億ドルもの含み損を出している。そしてウィーワーク。2017年以降、ソフトバンクは同社に100億ドル以上を注ぎ込んだ。ところが、創業者アダム・ニューマンのお粗末な退場劇を受けIPOを撤回して以来、同社は「死に体」だ。
ウィーワークの社債価格から判断する限り、ソフトバンクは出資金のすべて、もしくはよくても9割方を失いつつある。ビジョン・ファンド全体としても、シェアリング・エコノミーや輸送、旅行、不動産などの企業について、レイトステージで高めの評価額に基づき出資したのがあだとなり、苦しい戦いを強いられているように見える。