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2020.06.21 20:00

東大工学部から世界最高峰の美大へ。吉本英樹が目指すテクノロジーとデザインの高度な融合

Tangent代表 吉本英樹氏 Photo by Ari Takagi


──東大の修士課程って、けっこう自由なんですね。

僕は超異端でした。浮いていたと言ってもいいでしょう。

東大の航空宇宙工学専攻は日本では大きな権威があります。修士論文の審査会には、小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーを務めた先生など、錚々たる顔が並びます。そんな日本の航空宇宙工学界を代表する先生たちを前に、僕はラジコン飛行船を飛ばして光らせて50個売った話をしました。すると、「うちの学科でやることに、どういう意味があるのか」と聞かれました。僕のやっていることに懐疑的になるのは当然ですよね。


東京大学時代の飛行船を使ったパフォーマンス「Fluff」

そこで僕はこう言いました。「航空宇宙工学専攻はエンジニアリングの発展に貢献する学科ですが、どのように技術が使われ、社会に伝播し、サービスになって製品となっていくかを考えたり論じたりする場面は少ない。僕はそれをやりたいんです」と。例えば、エンターテインメントにおいて飛行船はどういうバリューがあるかを研究するのです。

コンサートホールやクラブでは頭上に大きな空間が広がっていて、そこに飛行船を飛ばしてパフォーマンスを拡張できれば、そこにバリューを生み出せる。飛行船は大きい風船のようなものですから、すぐには止まれないし、旋回できない。墜落はしませんがコントロールが難しいので、力学を考慮して飛行船の制御システムを組み込んだ上でパフォーマンスをする。それは玩具メーカーではなくて、航空工学をしっかりと勉強した人じゃないとできない。

だから50人ほどいる航空宇宙工学専攻の同級生の中で、そういう考えをもつ人が1人くらいいてもいいし、喜ぶ人が世界にたくさんいるはずだと、先生方を説得しました。すると「それは一理あるな」という雰囲気になったんです。

僕が始めてから、航空宇宙工学専攻でもエンターテインメントを応用領域の一つとして研究する人が毎年出てきました。成功例になったんです。

──そのあと、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に留学したんですよね。航空宇宙工学からデザインへと、専攻をガラッと変えたのはなぜですか。

もともと音楽のベースがあったことは大きいのですが、自分が勉強してきたエンジニアリングのスキルを使って、他のアーティストではできないようなアウトプットをすることに快感を覚えました。 

修士が終わって周囲の友人が就職していく中で、僕はもうちょっとクリエイティブとテクノロジーを極めたいという気持ちになったので、博士課程に行こうと決めました。テクノロジーにデザインやクリエイティブを掛け合わせる専門家になろうと。自分の中では大きく切り替わったわけではなくて地続きなのですが、専攻を変えるのなら海外に行ってみようと思い、2010年に留学することにしました。
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文=クローデン葉子

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