東大工学部から世界最高峰の美大へ。吉本英樹が目指すテクノロジーとデザインの高度な融合

Tangent代表 吉本英樹氏 Photo by Ari Takagi


──純粋に自分の興味のある方向に進んで、そのまま純粋に事業にされている印象がありますが、日本にいたらできなかったと思いますか。

自分の興味の赴くままにやってきていて、苦労はしているのですが、幸いにも投資家やクライアントなど、いろんな人に支えていただいて仕事ができたのは間違いないですね。日本にいたらできたかどうかはわからないですが、イギリスにいたからこそできたことは間違いなくあります。

ロンドンにはインターナショナルな機会がいっぱいやってくる、ということなんでしょうね。どの業界でもそれなりのポジションの人が年に1回はロンドンに来ますから。日本にいたら物理的にも心理的にももっと距離があると思います。


高級時計サロンSIHHでのHERMÈSのデザインを担当

──会社の組織が大きくなるにつれて、当初のコンセプトが崩れることはありませんか。例えば、従業員を食べさせるためにやりたくない仕事を引き受けるようになるとか。

私のチームは、そういう意味では組織を大きくしていません。フリーランスの集合体です。タンジェントは会社組織で、僕はその代表ですけれども、フリーランスとしてやっている信頼できるメンバーがたくさんいます。


SIHHプロジェクトの制作チーム。右から4人目が吉本氏

──みんな違うスキルセットを持っている人たちを集めているんですね。事務作業が大量に発生することはありませんか?

デザイナーの成長モデル、とくにアーティストに近いデザイナーの成長モデルは、シリコンバレーにあるスタートアップのそれとは異なります。何かを発明して、投資を受けて大きく事業展開するよりは、デザインのポートフォリオを作って少しずつ実績を上げ、オーガニックに拡大していくものです。そういう意味でこの4年間は、僕らにとって長い歳月がかかったという感覚はありません。しかし仕事も拡大してきたので、そろそろまた違うステージになるのかな、と考えています。

──10年前、今の自分を想像していましたか?

想像していないですね。海外にいるとも思っていなかったですし。

──では今後の10年は、どんなキャリアを歩むと思っていますか。

わかりません。どこにいるかもわからないですし。全くわかりませんが、それがエキサイティングだと思っているんです。20代から30代になった10年間とはまた違ったものになるでしょう。


スタジオでの制作の様子

連載:海外事業家に聞く、人生の決め方
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文=クローデン葉子

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