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2020.05.23

EV開発を断念した英国ダイソンの「次世代バッテリー」の強み

Photo by Jason Kempin/Getty Images for Dyson

掃除機で有名な英国の家電大手「ダイソン」創業者のジェームズ・ダイソンは、6億1200万ドル(約660億円)を投じ、EV(電気自動車)の開発を進めていたが昨年10月に断念していた。しかし、EV開発から得た収穫もあったようだ。

サンデー・タイムズに掲載されたインタビューの中で、ダイソンは初めてEVの姿を公開した。ダイソンによると、シートはこれまでにない独自の仕様になっているが、車両の開発コストが高すぎて商業化を断念したという。

「N526」と呼ばれるこのEVは7人乗りSUVで、航続距離は600マイル(965km)だ。この車両には様々なイノベーションが組み込まれている。例えば、ドライバーが前面から目を離さないで済むよう、速度メーターやナビゲーションといったダッシュボードの情報は、ドライバーの目の前に浮かび上がるようになっている。

しかし、コストがあまりにも高く、採算が見込めないことから開発プロジェクトは中止を余儀なくされた。「EVは開発費用が非常に高い。バッテリーやバッテリー管理、エレクトロニクス、冷却などは、内燃エンジンよりもはるかに高い」とダイソンは述べている。

N526が損益分岐点を超えるための販売価格は18万4000ドル(約1980万円)と、他のEVを大きく上回ることになった。プロジェクトは頓挫したが、開発費の全てが無駄になった訳ではない。ここで生み出したバッテリー技術は、今後の事業に貢献する可能性がある。

サンデー・タイムズは、次のように報じている。

「ダイソンのEVが特別だった大きな要因は、そのバッテリーにある。同社のエンジニアたちは、コードレス掃除機からヘア・アイロンまで様々な製品向けに、ハイパワーで静かで、充電時間の短いバッテリーの開発に長年携わってきた。“このバッテリーは、1回の充電で600マイル走行することが可能だった”とダイソンは誇らしげに語った。真冬の凍えるような夜に高速道路を時速70マイル(約112km)で走り、ヒーターをつけラジオを大音量で聴いても、同じ走行距離を維持できたという」

EVにはバッテリーが必要であり、ダイソンは全固体電池の製造という手ごわい課題に取り組んでいた。全固体電池は従来のリチウムイオン電池に比べてエネルギー効率が高く、小型で軽量だ。

「他社も全固体電池を開発しているが、我々の方が最初に実用化に成功するかもしれない。我々のバッテリーの方が他社にとってサステナブルなのであれば、他社に提供するのも選択肢になるだろう」とダイソンは述べている。

ダイソンと彼の家族の推定資産は198億ドル(約2兆1340億円)で、サンデー・タイムズが先日発表した英国の長者番付で初めて1位となった。

編集=上田裕資

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