まず感染者追跡では、多くの先進国でアプリの開発・導入が進んでいるが、それは個人データの蓄積方法で集約型か分散型に分かれ、また位置情報の使用の有無で異なる。しかし、その実効性はクリティカルなデータ量の確保が前提となる。
多くの国が参考にするシンガポールのアプリTraceTogetherは、個人のスマホ端末のブルートゥースで関知された他者との接触データを中央のサーバで管理する集約型で、当局が陽性者の接触データを分析し、個人にリスクを通知する、というものだ。対して分散型は、現在アップルとグーグルがAPIを開発中だ。同様に取得された接触データは、当局や中央サーバを介することなく、個人のスマホ端末に分散して匿名で管理され、通知は自動で受け取ることになる。
ただシンガポールでは、アプリのダウンロードが住民の20%弱に止まり、またアップルがiPhoneのブルートゥースの利用制限の解除を分散型に限っているなど、十分な量のデータ取得での難点も指摘される(後に義務化の動き)。当初はシンガポール型を検討していたドイツや日本は、5月中旬現在「分散型」の検討をはじめている。しかし、早期に集約型のアプリを開発し導入していたアイスランドでは国民の約40%がダウンロードしたものの、その実効性はアナログな電話聞き取り調査の補助程度との報告もあり、過剰な期待は禁物かもしれない。
ちなみに、韓国は、上記のブルートゥースではなく、陽性者の行動履歴をスマホ端末の位置情報やクレジットカード等の購入履歴から特定し、公表・追跡するという、プライバシーに大きく踏み込んだ手法を用い、そして中国は、既存の強力なデジタル監視システムを動員して、経済再開を図りつつ新型コロナウイルスを抑え込もうとしている。
次に治療薬・ワクチン開発について、ユニークだったのは科学者たちが協同のために研究成果を即座に「公開」する動きだというのは、薬学博士で製薬会社のオープンイノベーション部門を率いる黒田垂歩(たるほ)氏だ。
「武漢での感染爆発から間もない2020年1月末には新型コロナウイルスのゲノム配列が最初に発表され、以降5月時点で約5000名の患者のウイルスのゲノム配列データを蓄積した。それと同時に、ウイルスがつくるタンパク質の立体構造が瞬く間に解析され、世界に公開されている」。
黒田氏が挙げる主な世界のAI創薬企業の動きはForbes JAPAN本誌5月25日発売号にてリスト化したので、ぜひご覧いただきたい。海外の若いAI創薬企業に比べ、日本ではAIを用いてワクチン開発支援を行うNEC、自社が持つ自然言語解析AIエンジンを使って既存薬から抗ウイルス薬候補を見出したと発表したFRONTEO社など、大手・中堅企業の活動が目立っているという。またアメリカ西海岸では、実業家のトーマス・シーベルが、彼が率いるコンソーシアム「Digital Transformation Institute」を通して、新型コロナウイルスを抑制するためのAI技術の改善を目指す提案書を募集するなど、ビリオネア起業家によるリーダーシップが強いという。
未知のウイルス対人類。最先端のテクノロジーを活用した様々な取り組みは世界で加速している。ポスト・コロナ社会では、人類のテクノロジーとの共生ももう一歩踏み込んだものになっているかもしれない。