究極の予防医療 洋服型デバイスで起こす健康革命

Xenoma(ゼノマ)の「e-skin」


伸びるエレクトロニクスに白羽の矢を立てた、研究開発支援の「傭兵」




e-skinを開発したのはXenoma(ゼノマ)CEOの網盛一郎だ。網盛は農学の修士課程を修了した後、富士フィルムに入社。そこから18年間に渡って新規事業の部門に所属し、液晶ディスプレイ用のフィルムの開発等を担当した。

富士フィルム退社後は、フリーランスとして企業の研究開発や新規事業開発の支援を行ってきた。網盛の支援は単にアドバイスや提案をするだけでなく、現場第一主義のスタイルだった。実際に工場まで足を運び、製造工程をすべて確認した上で生産性改善やコスト削減のための提案を行ったり、企業のラボで自ら実験を行ったりと、ハンズオンで複数の企業や大学の支援を行ってきた。

ある日、そんな研究開発支援の「傭兵」ともいえる網盛に、友人の大学教授が相談にやって来た。大学の研究室では様々な研究が進められているが、製品化までに膨大な時間がかかることも多い。そして製品として世に出せても、ビジネスとして成功するものはごく僅かだ。網盛の友人の研究室でも、研究開発を進めている技術が製品としての形にならないという課題を抱えていた。その研究室の技術を実際に網盛が確認したところ、伸縮性のエレクトロニクスに目が止まった。

きっかけは個人の原体験


網盛が富士フィルムで液晶ディスプレイを担当していた当時、アメリカの企業が旗のようになびくディスプレイを発表した。2色のみのディスプレイだったが、「自由に変形するエレクトロニクスはなかなか無かったため、純粋に驚き、とても印象深かった」と網盛は当時を振り返る。「その旗を見ていなければ、伸びるエレクトロニクスを選ばなかったかもしれない」。数ある技術の中からe-skinの基となる技術を選択した際、このときの驚きが原体験としてあった。

「伸びるエレクトロニクスであれば自由な方向に曲げることができるし、これを洋服にしたら面白いんじゃないか。何万回洗濯しても壊れず、アイロンをかけられるようにしたい」。そのような思いが胸中に芽生えた。

網盛は何かを身に着けるのが嫌いで、腕時計もしていない。ウエアラブルデバイスを付けてもすぐに外してしまい、大抵はどこかに置き忘れてしまうそうだ。e-skinについて、「自分自身が日常で完全に着られるくらいにまでなれば、相当のユーザーが着てくれるようになると思う」と冗談ぽく語った。
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文・写真=入澤諒

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