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2020.05.25

「貧すれば鈍する」は本当か? 起業直後の資金繰りに奔走しながら考えたこと

Maskot / Getty Images


「本当に辛い」資金繰り


重松:元榮さんが、弁護士ドットコムを起業してから軌道に乗せるまでの間で苦労したことは何ですか?

元榮:それはたくさんあり過ぎて、困っちゃいますね(笑)。たとえば、僕の場合は、起業前に用意した500万円が1年間で溶けてしまいました。

それまでの人生で、毎月25日に給料が口座に振り込まれないなんてことは、一度も経験したことがなかったので、読みを誤ったんですね。500万円が事業資金として消えていくし、生活費としても消えていく。ダブルで消えていくこのハイスピード感(笑)。

2005年の12月に本当に資金が尽きてしまって、自分の家がなかったことが3カ月間ほどあるんです。僕の30歳の節目の誕生日には、家がありませんでした。友だちの家を泊まり歩いていたんです。

これはまずいと思って、思い出したのは「オレは弁護士だ」ということでした。弁護士をやろうと。弁護士業の良いところは、パソコンと電話があればオフィスがなくてもできること。しかも仕事は「着手金モデル」ですから、受任すれば即日お金がもらえるわけです。

そこで、先輩の弁護士に電話して、「一緒に共同受任できる仕事はありませんか」と聞いたら、「しょうがないな、この案件を一緒にやろう」とか、「この依頼者は忙しくて対応できないので紹介してやる」とか、いろいろと世話してくれて、なんとか食いつないでいったんです。

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弁護士ドットコム 元榮太一郎

重松:そこから、現在、代表を務める法律事務所オーセンスにもつながっていくんですね?

元榮:はい。当時、起業家兼弁護士は1人もいなかったので、歯を食いしばって頑張っていると、企業の顧問先が増えていくんです。珍しいねって。

企業顧問が増えてきたころから生活も安定してきて、余剰が生まれてきたところで、弁護士ドットコムに対して、赤ん坊にミルクを与えるように資金を出していきました。株式出資や貸付け、さらには法律事務所の広告代理店的な形で仕事を依頼し、売上に協力するというやり方で、全面的に支援を行った。なんとか社員10人くらいを弁護士ドットコムで雇えるような資金状態になり、その10人の仲間とともに、8期連続赤字を突き進んだんです。

重松:8期連続も、よく我慢しましたね。
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文=元榮太一郎

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