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CEOがすすめる一冊「すばらしい新世界」

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、黒田精工・代表取締役社長の黒田浩史が「すばらしい新世界」を紹介する


自動車やパソコン、スマートフォンなどの絶え間ないイノベーションは、人々の暮らしを大きく変えてきました。さらに、進化したロボットやAIが働いてくれる未来が実現すれば、生産性は上がり、人は働かずとも富を手にできるようになる──。いま、世界が目指しているのは、そんな社会です。自分たちが追い求める世界のその先にあるのはいったい何か。

私は、テクノロジーの進化を目の当たりにしながら育ってきた者として、時々、それを考えます。

小説『すばらしい新世界』が描いたのは、西暦2540年の完璧な計画経済と管理された文明の世界です。行き過ぎた資本主義と効率化を皮肉るかのように書かれ、1932年に発刊されたとは思えないほどの洞察力で、現代が抱える課題や、未来に問題になると思われる事柄が取り上げられています。

例えば、物語に出てくる新世界では、先進的医療技術のおかげで人間が老いや病気では苦しむことがありません。また、不安や落ち込んだ気分を打ち消す「ソーマ」という薬を飲めば、常に穏やかな気持ちを保つことができ、争いも起こりません。高度に発達した産業により必要な物資は潤沢に供給され、すべての欲求がバーチャルリアリティなどを通じて満たされることで、生活のために長時間労働をしたり、限られた資源や快楽を巡って争う必要などない世界なのです。

では、これらを現代と照らし合わせてみると、どうでしょうか。Y.N.ハラリが『ホモ・デウス』で書いたように、医療技術の進歩により、お金さえ払えば老いや病気から解放される可能性は目前に近づいています。ソーマのような薬も、合成麻薬などに置き換えると(副作用の有無や是非は別にして)、それも実現できているといえるかもしれません。物語に登場する空飛ぶタクシーや試験管ベイビーなどもまた然り。

中国の電子商取引大手アリババ・グループを創業したジャック・マー氏が、「今のテクノロジーをもってすれば、計画経済は可能になる」と言ったのは、数年前のこと。当時の私は、この言葉を大きな衝撃をもって受け止めました。
 
さて、大事なのは、不満もなく争いもない、格差や欲望が完全に管理・コントロールされた新世界で、人は幸せになれるのかどうかです。私は、直感でそれは間違いだと思うのですが、皆さんはいかがでしょうか。

テクノロジーの進歩によって人類は何を実現しようとしているのか。今我々はその選択を迫られているような気がします。本書を多くの人にお読みいただき、いったん立ち止まって一緒に考えていた
だければ幸いです。


くろだ・ひろし◎東京大学教養学部卒業。スタンフォード大学経営大学院卒業。新日本製鐵(現日本製鉄)に入社。その後、日本GE、日本GEマルケットメディカルシステム社長、GEキャピタルリーシング取締役シニアバイスプレジデントを経て、2009年から現職。

構成=内田まさみ

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