シネマの女は最後に微笑む

映画『マイ・ブックショップ』で主演を演じたエミリー・モーティマー(Photo by Ernesto Distefano / Getty Images)

「STAY HOME」が耳タコなほどだったこの1カ月、積ん読を解消しようと読書に精を出した人も多かったのではないだろうか。

連休明けから再開する書店が出始め、緊急事態宣言が解除されて以降は、休業していた大型書店やショッピングモールに入居していた書店も営業を始めた。一方、最大のネット通販であるアマゾンでは一時期、本の在庫切れが続出して問題となった。コロナ禍で通販需要が加熱したため配送拠点の業務に影響が出、本より生活必需品や衛生用品が優先されたというのがその理由だ。

「アマゾンは書籍を必要不可欠ではないアイテムとして扱い、発送時間を先延ばしにしている」との批判もある。しかし、アマゾンのマーケットシェアは依然として伸び続けており、他の独立系の書店はネットでも店舗でも苦戦を強いられている状況だという。

つい手軽にアマゾンで買ってしまいがちな習慣をこの機に見直し、積極的に町の書店に出かけて書棚を眺め、思いがけない一冊と出会う楽しみを味わいたいものだ。

『マイ・ブックショップ』(イザベル・コイシェ監督、2017)は、小さな町で一人で書店を立ち上げた女性の物語。スペイン・ドイツ・イギリスの合作で、第32回ゴヤ賞において数々の賞を受賞した。

夫の戦死後、念願の書店を開業


1959年、イギリスの海岸沿いの町に暮らすフローレンス・グリーン(エミリー・モーティマー)は、夫を戦争で亡くしてからずっと引きこもっていたが、ようやく二人の念願だった書店を始める決心をつける。

前からチェックしていた古い家屋を買い取って修復し、渋る銀行に融資を頼み、弁護士に手続きを申請し……。噂は小さな町にあっという間に広がるが、人々の反応はいまひとつ。本は人生に必要不可欠と考える人がいないこの町で、「読書家」と言われているのは、何十年も引きこもって暮らす老人エドマンド(ビル・ナイ)だけだ。

地元一の資産家ガマート邸でのパーティに招かれたフローレンスは、夫人のヴァイオレット(パトリシア・クラークソン)から、「あの家は自分が買ってアートセンターにするつもりだった」と牽制される。

関心があるのか何かと軽口を叩きながら近づいてくる、BBC勤務のミロ・ノース氏。店のバイトに志願してくるしっかり者の小学生クリスティーン。「本を送ってほしい」との手紙をよこし、通販を希望するエドマンド老人。

少し癖のあるさまざまな人物が交錯する中、主人公のフローレンスは、頑張り屋だがどちらかというと地味なタイプの女性として描かれる。

けれども、入荷されてくる本を扱う丁寧な手つきや、書棚をしみじみと眺める瞳の輝きから伝わってくるのは、こよなく読書を愛し、自分が良いと思った本を一人でも多くの人に届けたいと願う、一書店主の情熱だ。ようやく開店にこぎつけた店舗を見上げて、ワクワクする気分を抑えられない子供のような表情が印象に残る。

文=大野 左紀子

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