医者の道を絶ち起業 離島医療の経験と「家事マネジメント」から得たもの

山田洋太 (iCARE代表取締役CEO)

国内導入数No.1の健康労務クラウドを提供するiCARE。社長の山田洋太に、100名近い患者を看取ったのち、経営者になったという異色の経歴や家族について聞いた。


iCARE(アイケア)は「カンパニーケアの常識を変える」をミッションに、働く人が健康を維持するための法人向けヘルスケアサービス「Carely(ケアリー)」を提供しています。具体的には、健康診断やストレスチェックなど従業員の健康情報を一元化し、労務リスクの高い従業員を自動抽出。その結果を産業医と連携し、サポートしています。おかげさまで現在は260社・57000人ユーザーにご利用いただけるまでに成長することができました。

経営者になる前は内科医として5年働き、そのうちの2年は沖縄の久米島で離島医療に従事していました。その間、医学的にはまったく説明のつかない、不思議な状況に何度も遭遇した経験があります。例えば、いまにも心臓が止まりそうな重篤な患者さんが、大切な人が病室に向かっている最中はなぜかもちこたえ、自分の名を呼びかけられた途端に心臓の動きが弱くなっていくとか……。人知を超えた力を信じざるを得なくなったことで、「人事を尽くして天命を待つ」を信条とし、いくつもの修羅場を乗り越えてきました。

天職とすら思っていた医者の道を絶ち、起業したのは、2011年です。「子どもや孫の世代で破綻するであろう医療制度に頼らず、健康に生きるための仕組みづくりをしよう」と考えたのがきっかけでした。とはいえ、理想と現実のギャップに日々悩みが尽きず……。救いになったのは、統治者が国を治める様子を描いた歴史本や、栄枯盛衰・諸行無常などの真理を知ることができる宗教本、そして家族の存在でした。

僕には看護師の妻との間に4人の子がいるのですが、平日の帰宅後は長女の宿題に必ず目を通します。宿題なんて誰もやりたくない。その気持ちがわかるからこそ、「頑張りをちゃんと見てるよ」というメッセージを毎日伝えたい。何より、丸をつけコメントを残すことで、父娘の関係づくりにもつながります。これは組織において対面コミュニケーション以外で関係を構築する方法にも通じるところがあります。

また、以前は「僕は仕事で妻が家事」と、明確な役割分担をしていましたが、3人目ができ、家のことを妻だけに任せていては回らないことに気づいて、僕も家事を始めました。週末に1週間分の食事のつくり置きをしたり、平日も洗濯機を回し、掃除機をかけたり……。それくらい当然だというお叱りの声が聞こえてきそうですが(笑)、これを機に、子どもも含めて、気づいた人が家事をするのがわが家では“当たり前”になりました。

「気づいた人が自ら進んで行動できる組織」は素晴らしいですが、言葉で理想を伝えたとしても、人は動きません。僕は会社でも、月に一度の納会では空いたコップを率先して洗うし、年末の大掃除では決まってナンバー2とトイレ掃除をします。そうするうち、「女性だから」「新人だから」ではなく、気づいた人が率先する組織風土が形成されてきました。家庭が回らないという危機的状況による副産物だったとも言えますが、問題に向き合いながら夫として父として成長することが、事業や組織づくりにもいい影響を与えると実感しています。
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構成=伊勢真穂 写真=yOU(河崎夕子)

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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