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今、世界は新型コロナウイルス(COVID-19)による景気不振の真っ只中にいる。これが長期化すれば、2008年リーマンショック以来の世界レベルでの景気後退をまねくだろう。

この危機から日本企業が勝ち抜くためには、定石に立ち返るだけでなく、経済回復のプロセスにおいて3つの新たな観点も考慮する必要がある。──そう語るのは、現在世界37カ国に58拠点を持ち、そのネットワークを通じて世界のトップマネジメントに戦略提言を行っているコンサルティングファームであるベイン・アンド・カンパニー 東京オフィス パートナーの石川順也とプリンシパルの大原崇だ。



「ちょっといいもの」は消え去る


石川によると、危機に瀕した経済を回復させるプロセスにおいて、これまでとは違った次の3つが挙げられるという。

1.経営者だけでなく、高齢者や子供も含めた全員が経済回復における当事者となる
2.全世界がほぼ同時に同じ体験をし、同じ試練を克服しようとしている
3.景気回復後に「戻るもの」と「まったく新しくなるもの」が出てくると予想される

それぞれのプロセスを詳しく分析しよう。

1.経営者だけではなく、高齢者や子供も含めた全員が経済回復における
当事者となる


「これまでの景気不振は、企業が経済的な打撃を受けることから経営者が当事者でした。経営者が会社をどう舵取りするかが試されました。しかし、今回は、経営者だけでなく、マネージャー、従業員、そして株主、さらに外出自粛や休校などを余儀なくされている高齢者や子供も含めた全員が当事者です。いろいろな立場で価値観が試されます」と石川は言う。

ここでいう価値観とは「パーパス(目的・意義)」を指す。企業や組織、個人が何のために存在するのかという「存在意義」を意味する。言い換えれば、「これは意味があることだろうか?」と考えるということだ。

「とくに緊急事態宣言を受けて、『不要不急』なモノや行いが削り取られました。自発的であれ、強制的であれ、本当に必須で意味のあるものだけが残っていくようになる。パーパスは研ぎ澄まされていきます」(石川)。

これについて大原は、身近な例を挙げる。

「たとえば、生活必需品の購買行動がそうです。緊急事態宣言以降、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、マスク、消毒液など、あらゆる生活必需品において品薄状態が続き、品質は問わない、量を確保できればいい、となった。一方、家にこもってばかりで少しでも生活に潤いをもたせたいという理由からでしょうが、重要な価値があるものには贅沢にお金を使う。その間の言ってみれば中途半端なものは立ち位置を失っていくのです」(大原)。

こうした製品やサービスに対し顧客ロイヤルティを指標化するシステムが、ベインによって開発された「ネットプロモータースコア(NPS)®」(*1)である。

「今後は10点と9点で評価されるものは徹底的に支持されるが、それ以下は全く支持されなくなるという二極化が進んでゆくと考えられます」(石川)。

また、今回のコロナ危機は、これまでは必ずしも見える化・共有化されていなかった、サステイナビリティの真の意味を、全人類に突き付けたという面もある。今後、サステイナビリティは、単なる社会貢献、プラスアルファの活動ではなく、パンデミックを今後起こさず、人間社会を守るための合目的な活動として再定義されるはずだ。

優れたものが勝り、劣ったものは敗れる。「優勝劣敗」の格差が極めて大きくなってきた今だからこそ、商品やサービスを提供する企業は「パーパス」をより際立たせることで顧客ロイヤルティを獲得することができると言えよう。



2.全世界がほぼ同時に同じ体験をし、同じ試練を克服しようとしている


全世界で共通する危機に立ち向かうときに必要なのは、スピード感を持った対応力だと大原は力説する。

「まず重要なのは『これまでとは違う。有事である』と割り切ることです。なぜなら、過去の成功体験やレガシーに引っ張られると、踏み込んだ再編ができないからです」

石川も、大原と意見を同じくする。

「『これまでは違う。有事である』という感覚を持っていないと、その時点で以前の状態をベースに『改善』とか『より良くする』ということを考えがちです。しかしGDPの下落を見ても、今回はそれで乗り越えられるような波ではありません。市場における商品・サービスのミックスは今後大きく変化し、株主、従業員等、ステークホルダーから企業への期待値も大きく変わる。企業も個人も、いつかはコロナ前に『戻る』、それまでは耐え忍ぶ、という思想は転換すべきです」。

そこで、ベインが戦略を策定する上で欠かせない概念「フューチャーバック」が生きてくる。フューチャー(未来)をゼロベースで規定したとき、何を切り捨て、何を守るのかという、断捨離的な発想だ。

石川は言う。例えば「コアの強みを高めて差を広げる投資やその資産については徹底的に守る、ロングテールで中途半端な製品群やプロジェクト・事業は潔く捨てるといったメリハリのついた覚悟が必要になります。ただ嵐が過ぎるのを待つのは絶対ダメ。嵐のような状態は恐らく今後1~2年は続くと思われます。それだと価値観の変化についていけず、いざ経済が回復したときに、従来の商品やサービス、そして会社が勝ち抜くことはできません」

まずはフューチャーバックでやるべきことをしっかりと捉えることだ。

そのために、「『トップダウン』と『ボトムアップ』のアプローチがありますが、今回もトップダウンは重要です。イニシアチブを持ち、クイックな提言をし、スピード感ある組織運営をすることが求められるからです。一方、ボトムアップだけでやっていたら間に合わないことも多くあります」(石川)。

「ただし、トップダウンで号令をかけるだけでも不十分。各現場レベルにおいて、上司に言われたからやるのではなく、従業員も創業者目線を持つこと。つまり、会社のために自分がすべきことを自ら考えて行動する。ベインでいう『マイクロバトル』──小さい変革を数多く起こし試行錯誤しながら新たな仕組みを作ることが極めて重要になっていきます。それを会社がサポートすることで、会社と従業員がウィンウィンの関係になる。実際に、その方が再編は早く進むので、勝ち筋が見えてきます」(大原)。

従業員も「当事者意識を持て」とは、これまでも言われてきたことだ。だが、新型コロナのようなウイルス感染による危機では、企業レベルだけでなく個人レベルにまで影響が及ぶため、全員が否応なしに当事者意識を持つようになる。従業員それぞれが危機を脱し変革を起こす上で活躍できる場を企業が作ることができれば、企業の危機を自分事として捉え行動するという意識改革を実現できるチャンスにもなる。実際に従業員が事業の意義を再発見し、社会の役に立つために献身的な貢献をしている事例も報告されている。

3.景気回復後に「戻るもの」と「まったく新しくなるもの」が出てくると予想される


今回の危機も、数年かければ金額ベースの市場規模は回復する業界も多いだろう。しかし、その中身は一変すると、大原は断言する。

「例えば毎日会社に行って仕事をするのが前提だったのに、多くの部分で会社に行かなくても仕事ができると気づいた。もちろん、今のような在宅勤務が100%続くとは思いませんが、これまでのように会社に毎日出社するのが前提にもならない。さらに言うと、自分の仕事が不要不急だったのではないかと考え始める社員も出てきている。一度、実質的に変わってしまったものは、もう戻らないし、変わっていきます」(大原)。

また、この危機においても売れている商品やサービスの持続性も見極めないといけないと大原は言う。

「それは緊急事態宣言による制約によって起きているたまたまの需要なのか。それとも、お客さんが真の価値を認めているからなのか。その見分けが必要です。たまたま売れている商品やサービスの分野には、新規参入者が増え、あっという間に競争は激化しますから」(大原)。

「企業側の論理での持続性では、コロナ禍でパーパスを研ぎ澄ました消費者、そのマインドを強めた従業員には見破られます。真の社会レベル・個人レベルでのサステイナビリティに共鳴する価値を打ち出し、あらゆるレイヤーで一貫した運営がより一層重要になる」(石川)



しかし、闘い方はある。中国からはじまり、ヨーロッパ、アメリカなど、感染が深刻化している他国の事例をただ漫然と見るのではなく、それを日本に置き換え、打つ手を考えることだ。

「海外に買収した会社を持つ日本企業は、グローバルにオペレーションできるアンテナがすでにある。視野を広く持ち、早急にアクションをとりやすいので、今後激化が予想されるグローバルな競争に耐えられる」(石川)。

ただし、そこでゼロから新たな商品やサービスを作ろうとすると、リードタイムがかかり海外事業がある利点が活かせない。すでにある自社のコアとなる強みを明確に見つめ直して定義し、今後の1~2年の間に起こるであろう景気のシナリオに合わせてシミュレーションする。それがベインの考える戦略だ。

このような未曾有の危機に直面しているからこそ、企業は経営の「定石」に立ち返り、答えを見つける必要がある。

●顧客、従業員、取引先、株主等、あらゆるステークホルダーに対して、何が重要な価値になり、そこにどのように応えていくのか、という目的意識を明確に設定するための、創業の精神への立ち返り

●「ニューノーマル」に照らし合わせた第二の創業

●顧客や従業員エンゲージメントの強化、組織や働き方・意思決定プロセスのリフレッシュ

●株主との建設的な対話

●業務のあり方の根本的な見直しを含むコスト構造改革

●大胆な事業の売却・整理を含めた事業や商品/サービスポートフォリオ見直しと、それを原資にしたトランスフォーメーション(大規模な事業変革)への着手

このような「定石」に立ち返る道筋を示した書籍がベインの複数のパートナーがそれぞれの専門分野を活かして執筆した「日本企業復活の戦略-先が読みにくい時代の5つの定石」である。本記事と書籍は、世界が初めて体験している危機に対峙している企業の方々の一助となるだろう。

(*1)NPSとはサービス、製品、企業等に対する顧客ロイヤルティをはかる指標で、「この商品・サービスを友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問に0~10点で回答してもらい、10~9点と回答した顧客を「推奨者」、8~7点を「中立者」、6~0点を「批判者」として3つのセグメントに分類する。「推奨者の割合―批判者の割合」が、NPSのスコアとなる。


悩める企業の光明となる『日本企業 復活の戦略―先が読みにくい時代の5つの定石』(日本経済新聞出版社)は2020年に発売された。
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Promoted by Bain & Company / text by 丹 由美子 / illustration by 長井究衡

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