そして学んだ「相手のカルチャーコード」の重要さ
多国籍の仲間としのぎを削ることで得た実感は、コミュニケーションの根本について考えるきっかけにもなったという。
「相手に思いを伝える、相手が伝えようとしている思いを受け取るトレーニングは一生できる、しなければ、と誓いました」
そして、この時代に体得したコミュニケーションに関する極意は、近谷がその後身を投じることになるビジネスの領域、とくに海外との交渉の場で大きく生きることになる。
例えば、ミーティングで同席する相手の「背景にあるカルチャーコード」を知ることで、「なぜ彼はそんな主張をするのか」が理解できる。相手の『本当の狙い』が見えてくる。言い方を変えれば、相手がどういう「戦士」なのかを研究しておくと実戦で対峙しやすくなり、妥協点を見出しやすくなるのだ。
筆者も、アマゾンジャパンでの勤務時代、複数国の同僚との電話会議での自らの経験に思いあたった。5〜6人の会議だと、全員が揃う(会議アプリにログインする)までに数分のタイムラグが必ず発生するが、その間の「雑談」が案外重要だったのだ。
このバッファ(緩衝)の時間で、相手が例えばビジネス街道まっしぐらの、社内で出世したいタイプなのか、それとも将来はフリーランスで作曲をしたり脚本を書いたりする世界で名を上げたいのかといった「戦士としてのプロフィール」を知っておくことは、その後の正味の会議時間に資する情報として活用できた。前週の彼らのパフォーマンスの「どこを評価したらいいか」を判断したり、「だったらここは譲歩できるのでは」「ここはきっと譲れないポイントだろう」を推測したりするうえで役立ったのだ。
突出した個性の日本文化を輸出、予知不能の「化学変化」を起こしたい
ハリウッドで演技を勉強したり、映画産業で役者をしたりはしたものの、近谷にとって必ずしもカテゴリーは「演技」でなくてもよかったという。それどころか帰国後は分野を問わず、すぐれた表現によって起きる「事件」を目撃したいという思いが募っていく。
「アメリカで異なる言語環境やカルチャーに飛び込み、そこで起きる『摩擦』を目撃する充足感を知ってしまったことは、その後の人生に大きく影響することになりました。そして、『イースト・ウエスト・プレイヤーズ』で実感した『真剣に表現しようとする人がいる現場がはらむ可能性』、これはその後、場所や分野が変わっても強く信じ続けています」
そして帰国後、気がついた重要なことがあった。日本の出版物には、常軌を逸するほどのマニアックなアイディアが溢れていたのだ。
「日本のクリエイターたちは実にぶっとんだ、クレージーな、あり得ない発想をしている。茶道や武道に代表される『道』に通じたいという精神、文化的土壌が根底にあるからでしょうか、『極め度』もすごい。ジャンルの幅も世界一広い。
ハリウッドはそれに比べるといわば『遊園地的』で、みんなに受けるための最大公約数で『当てに行く』のが戦術。エンターテインメント・カルチャーが、コストを回収するための巨大な装置と化していますよね。もちろん、当てに行くための技術力と感性、そしてスケールは頭抜けて世界一流なんですが」