ゲイツの次なるプロジェクトは、訓練や採用、評価を通じた教師の改善だった。再び巨額の資金が投じられたが、プロジェクトはまたしても失敗とみなされた。その理由の一つとして、生徒の標準テストでの読解・数学の成績が上がらなかったことがある。そして、ゲイツ財団はまたしても撤退し、巨額プロジェクトの行方はフロリダ州ヒルズボロ学区にゆだねられた。
ゲイツの教育プロジェクトの中でも最も悪名が高いのは、「全米共通学力基準(CCSS)」と呼ばれるものだ。これはゲイツ自身が考案したものではなかったものの、2014年に米紙ワシントン・ポストが詳しく報じたように、ゲイツはCCSSを全米の州へ迅速に導入すべく、財政・組織面での支援を行い、多大なる影響力を行使した。
ゲイツがCCSS支援に費やした額を知ることは難しいが、ゲイツの米教育界への投資は数十億ドル(数千億円)に上り、数兆ドル(数百兆円)規模の税金の使い道に直接的な影響を与えてきた。CCSSが成功だったと言う人もいるが、評価は一致していない。しかしCCSSは、ゲイツが重きを置く2つの要素(データ収集への注力と、数学と読解のテストの出来を基準とした成功の評価)を米国の学校制度に深く植え付ける一助となった。
ゲイツは他の誰よりも多額の金と影響力を米国の教育界につぎ込んできたが、それでも読解と数学テストの成績向上というゲイツ自身の基準では、はっきりとした成功を収められていない。また、ゲイツが失敗から何か学んでいるようにも思えない。これまでのゲイツ夫妻の年次書簡を読み返すと、新しいアイデアが成果を出さなかったことは認めているものの、プログラム自体の中にあった問題を特定することはなかった。
その代わりに失敗理由として、教師の適切なリソースや訓練の不足、財団の広報活動で反発を予測できなかったことなどが挙げられている。長年失敗を続けているにもかかわらず、直近の年次書簡では自分たちが想定していたことの一部を見直したり、アプローチを変えたり、違う人の視点を入れたりすべきだという結論には至らず、今までやってきたことをさらに懸命に続けるべきだと結論づけている。