ビジネス

2020.05.16

僕が「ヒーロー投資家」になるまで──長友佑都

ガラタサライSKに所属する長友佑都


投資先としては、長友自身の人生のストーリーがシンクロする、スポーツやヘルスケアといった分野が主な候補になる。当然キャピタルゲインを得ることが必須になるため、事業の成長性や市場の大きさなど、投資に値するビジネスか否かをシビアに判断する。

しかし長友は、「ビジネスとしての完成度よりも、『志』や『嘘偽りがないか』を最も重要な判断基準に置いている」と語る。

「投資家としても、世界中の人々を助けられるヒーローになることを目指しているため、大前提として“志が大きな起業家”にしか投資をするつもりはありません。そして、その志に嘘がないかは、対面して話をすれば分かると思っています。判断基準を言語化するのは難しいですが、本気の人を目の前にすると、心が動くのです。例えば、サバンナの荒野にいる動物と、動物園にいる動物にはオーラや体の中から湧き出てくる『圧』が違います。嘘偽りのない志を持った人は、サバンナの荒野にいる動物と同様、言動が普通とは違ってくるのです。そうした本気さを感じられなければ、どれだけ優れたビジネスモデルであっても、僕は投資をしません」

現在投資しているスタートアップは、ベビーフード「Mi+ミタス」を展開するMiL、世界のプロチームからスカウトを受けられるサッカー専用アプリ「dreamstock」を手がけるdreamstock、被写体を中心に動画を再生しながら視点を変えられる新しい動画コンテンツ「SwipeVideo」を手がけるAMATELUS、そのほかにも戦友である本田圭佑が代表取締役のNowDoの4社。どれも、長友自身が経営者と対面で話をし、その志に惚れ込んだことが投資に至る最後の一押しになった。

「茨の道」とも取れる夢への道のりも、さらりと口にしてみせる背景には、彼の挫折多き過去が関係している。長友はジュニアユースのセレクションに落選しており、大学進学をする際にはスポーツ推薦をもらえず、大学ではスタンドで太鼓を叩いている時期があった。

「僕は豊かな才能を持ったサッカー選手ではありません。だから、人の何倍も努力しなければいけなかった。でも、夢を公言することと、それに向かって努力することだけは止めませんでした。その結果、海外のビッククラブでスター選手たちと互角に戦うことができています。努力で人生を変えてきた自負があるので、先々に待ち受けるであろう困難も、自分次第で乗り越えていけると、本気で思っているのです」

幾多の挫折を乗り越えてきた長友は、自身の経験を踏まえ、日本の起業家に「まだまだやれるぞ、と伝えたい」と語る。

「ビジネスやスポーツに限らず、日本人は何かと、海外にある種の劣等感を持っているように思います。でも、間違いなく互角に戦える。何より、僕が証拠です。だから、恐れず世界に飛び出してください。成功が保証されている挑戦はないけれど、成長が約束されていない挑戦もまた、存在しないのです。若い起業家たちに、その背中を見せていきたいと思います」


長友佑都◎セリエAの名門・インテルを経て、現在はトルコ・スュペル・リグのガラタサライSKに所属。また日本代表歴代2位となる国際Aマッチ122試合出場を記録するプロサッカー選手。その傍ら、起業家として事業会社Cuore、サッカースクールINSIEMEを経営。そして投資家としてのキャリアもスタートさせた。

文=倉益りこ & 小原光史 写真=伊藤圭

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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