出口戦略は「鉄槌、そしてダンス」? 世界が注目する新型コロナ論

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「ハンマーとダンス」の日本語翻訳を公開した加藤氏が、日本の感染経路特定の課題として指摘するのがITの活用である。日本の感染経路特定方法は、陽性が発覚した人物に保健所が聞き取り調査を行い、行動履歴から濃厚接触者を割り出すというもの。情報の正確性とスピードには不安が残る。対して韓国は携帯電話の位置情報を用い、発生場所にいた人物をリストアップしPCR検査を促す。感染抑制のスピードは明らかである。

加藤氏は「プライバシーの議論が絡んでくるため、慎重に判断する必要があるが、ITを駆使すれば感染経路の特定が難しい日本の現状を変えることができる。命と経済のバランスをとるためにプライバシーがどうあるべきか、もっと議論されるべき」と話す。

この議題に日本でいち早く取り組んだのが、大阪府の吉村洋文知事だ。5月12日、大阪府はQRコードを利用した追跡システムの導入を発表。5月中の導入を目指しているという。店舗や集客施設に来店・来場した客にアドレス登録を促し、感染者が確認された際に直接メールで通知。名前や住所、行動履歴などの取得は行わない為、プライバシーを守りながら感染経路を特定できる。IT活用の一例として注目度は高いが、アドレス登録は個人の判断に委ねられるため、情報把握の網羅性など課題も予想される。


加藤氏はフィリピンと日本の感染状況の差異にも注目している(フィリピン国内の都市別感染者データ:作成・加藤氏)

台湾のデジタル大臣


加藤氏が「ハンマーとダンス」論にあたってもう一つ重視するのが、国政と国民のコミュニケーション。新しい生活様式を強いられる「ハンマーとダンス」下、国民の理解を得ることは不可欠だからだ。加藤は2007年にオンライン英会話事業の「RareJob」を起業、14年に上場。現在はフィリピンのエンジニア育成事業「Zuitt」のCEOを務め、企業のトップとして身を以て対話の重要性を語る。「社員の質問や要望に応えるため、自身の中で思考が整理された。対話は、限られた環境・時間の中で良い施策が生まれる一因になり得る」という。

そんな加藤氏が好例として挙げたのが台湾。蔡英文総統は公衆衛生の研究者としても名高い陳建仁副総統と共に、LINEを活用し情報発信。陳時中・衛生福利相は毎日記者会見を行い、市民からの質問にも答える。記者会見は2時間を超えることもあるという。デジタル担当政務委員(大臣)の唐鳳(オードリー・タン)は、マスクの在庫や購入履歴をデータ化し公開、「マスク配布システム」のアプリ開発で世界の注目を集めた。

日本国内において、国民との対話やオープンデータ化の先端を行くのが東京都だ。小池百合子都知事は4月に人気YouTuberのHIKAKINと共演。約20分にわたり新型コロナ対策にまつわる質問に答え、若者に対しても理解促進に努めた。3月に公開した「新型コロナウイルス感染症対策サイト」では、プラットフォーム「GitHub」上でサイトの改善・修正提案の受け入れを実施。台湾の唐鳳が改善提案を行ったことでも大きな話題となった。IT活用、国民との対話、オープンデータ。コロナ禍から見えてきた日本の課題解決が急がれている。


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文=齋藤優里花 企画=石井節子

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