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2020.05.15 09:00

多角化経営と利他精神が生む「真のオープンイノベーション」

京セラ執行役員研究開発本部長の稲垣正祥(中央)、コーポレートデベロップメントグループの投資部門を担う事業部長の小泊建二(右から二人目)らが中心となって取り組む。

京セラ執行役員研究開発本部長の稲垣正祥(中央)、コーポレートデベロップメントグループの投資部門を担う事業部長の小泊建二(右から二人目)らが中心となって取り組む。

独立系VCのグローバル・ブレインが、オープンイノベーションを推し進めるべくCVCを運営する大企業を集めたコミュニティ「α TRACKERS」。そこに参画する京セラに、オープンイノベーション強化の戦略と最新動向について聞いた。


京セラは現在、研究開発部門とコーポレートデベロップメントグループ投資部門の両輪体制で、オープンイノベーションを積極的に進めている。同社が2019年に行ったIRデーでも、谷本秀夫社長が「主な取り組み」のひとつに研究開発活動の強化をあげ、その中でオープンイノベーションの推進を掲げている。その言葉通り、同社は19年、3つの象徴的な事例を生み出した。ひとつは、R&Dセンターの「みなとみらいリサーチセンター」の新設。ふたつ目が、ライオン、ソニーとの協働で行った、子ども向け仕上げ磨き専用ハブラシ「Possi(ポッシ)」の開発。3つ目は、ベンチャーキャピタルへのLP出資とスタートアップ投資の本格化だ。

同社がオープンイノベーションの取り組みを強化したのは、5年前。京セラ執行役員研究開発本部長の稲垣正祥をリーダーに3人から始めた組織は、米国シリコンバレーへの人材派遣をはじめ、試行錯誤してきた。その成果が出始めた形だ。

「『幕の内弁当』のように、京セラは事業が多角化しています。材料から部品、完成品、システム、サービスまで幅広く、事業領域も自動車関連、情報通信、環境・エネルギー、医療・ヘルスケアなど多岐にわたります。そして、それぞれの分野で優れた技術力がある。だからこそ、社内外を含めたそれらの新しい組み合わせが新しいビジネスを生むことを体験的にわかってきました」(稲垣)

「みなとみらいリサーチセンター」は19年7月、村田製作所、ソニー、資生堂など大企業のR&D拠点の集積地に創設。6階にイノベーションスクエアと称する「共創スペース」を設けた。新たな価値を生み出すビジネスの「種」を見つけるため、イベ ントやカンファレンスなどを開き、スタートアップや大企業をはじめとした社内外の人たちが活発に交流し、触発し合うことを目的にしたスペースを作った。稲垣が提唱する同施設のコンセプトは「船」。「志が一緒で、一緒にやろうということを大切にしている。人間同士の強い絆が重要」。この姿勢こそ、オープンイノベーションを推進するという。

その成功例とも言える取り組みが、子ども向け仕上げ磨き専用ハブラシ「Possi(ポッシ)」のプロジェクトだ。同社は、ソニーが展開する「SonyStartup Acceleration Program(SSAP)」に参加し、ライオンと共同開発。「Possi」は、デザイン、音楽、テクノロジーを融合させて「子どもが嫌がる歯磨きを楽しい時間に変える」をコンセプトに開発。京セラが持つ、電気信号を音に変換できる「圧電セラミック素子」の技術を用いた共創により、これまでの京セラの既存事業領域にはない新製品開発に至った。19年9月にクラウドファンディングにて事業化に向けた目標金額を達成した。
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文=フォーブス ジャパン編集部 写真=若原瑞昌

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