もちろん、スタートアップに付き物の“成長痛”はある。2年前までは、ソースコードを編集するために使っていたキャンバのツールがあまりにもお粗末だったので、同時に5人のエンジニアしか作業に取り組めなかった。18年の同社の目標の重きは、アプリのフロントエンド・インターフェースを完全にリライトすることに置かれたほどだ。
「あまりにも成長が早いので、定期的に欠陥が生じているのは事実です」と、共同創業者のクリフ・オブレヒトも認める。
そして19年5月、キャンバは最大の試練を迎えた。ヨーロッパのハッカーが同社のシステムに侵入。キャンバが手を打つ前に、1億3900万人にも及ぶユーザーの名前やメールアドレスが流出したのだ。その2週間後、キャンバはすべてのユーザーに対して2段階認証を導入することを発表した。認知度が高まれば、狙われるリスクが高まるということだ。
パーキンスをよく知る人たちは、彼女ならプレッシャーに対処できると確信している。アップルの共同創業者スティーブ・ジョブズの“広告塔”として、1980年代にアップル製品の宣伝をして回ったガイ・カワサキもキャンバに出資し、14年には同社の「チーフ・エバンジェリスト(伝道師)」に就任している。彼は自身のキャリアの最後をパーキンスのために捧げてもいい、と考えている。
「マッキントッシュを使う人よりも、“デザインの民主化”によって助けられる人の方が多い」と彼は語る。「成功するために、シリコンバレーにいなくてもいいんですよ。それどころか、アメリカにいなくたっていい。すごい時代になったものです」
キャンバ◎2012年創業のデザイン制作サイト。世界190カ国でサービスを展開。シドニーに本社を置き、従業員は700人超(19年12月現在)。キャンバは誰でも無料で使えるが月額12ドル95セント(米ドル)でアニメーションやGIFも作成でき、優先サポートを受けられるプロ仕様の「Canva Pro」もある。法人を対象とした「Canva for Enterprise」も発表している。
メラニー・パーキンス◎デザイン制作ツール開発企業「Canva(キャンバ)」の共同創業者兼最高経営責任者(CEO)。2016年には、アジアを代表する30歳以下30人を表彰する「フォーブス・アジア30 UNDER 30」の起業家部門で選出されている。18年6月に行われた「Forbes JAPAN」の取材では、「一番重要なのは、ユーザーに価値をもたらすこと」と繰り返した。