何百万人も利用する“無料”という最強の価格設定以外にも、キャンバには、大手テック企業「アドビ」をはじめとした競合が提供するプロダクトに負けない強みがある。それは使い勝手のよさだ。キャンバが誕生する以前、一般のユーザーたちは、マイクロソフトのワード文書を使ってデザインに四苦八苦するか、高額を払って使いにくいプロ仕様のツールを利用するほかなかった。
しかし今では、誰でもどこにいようと、キャンバのアプリをダウンロードしさえすれば、10分足らずでデザイン制作ができるのだ。
キャンバの売り上げは、より豪華な素材などが使える月額10ドルのプレミアムサービスか、あるいは法人向けのサービスから成り立っている。同社が所有する何百万枚にも及ぶ高品質のストックフォトを使うならもう1ドル。その結果、19年の売り上げは前年比の倍となる2億ドルを見込んでいる。
8500万ドルを獲得した直近の資金調達ラウンドでは、32億ドルの企業評価を受けている。少なくともEBITDA(税引前利益に、特別損益、支払利息、および減価償却費を加算した値)上はキャンバが17年に黒字化しているという。
アップルを超える“デザインの民主化”
だが、キャンバには明確な課題がある。それは、ソフトウェア開発企業「アトラシアン」やコラボレーションアプリ「スラック」、動画会議アプリ「ズーム」と同じように、ある典型的なジレンマを抱えている点だ。フリーミアム・モデルの場合、インターネット上でバイラルに広がれば多くのユーザーを獲得できるが、その多くが一銭も払わない。
そしてキャンバは、今日の大企業のほぼすべてにユーザーを抱えているというが、その多くは社内の一個人や小規模のチームだ。法人契約のユーザーではない。それに、市場のより川上へ向かうということは、アドビと競争する機会が増えているということである。アドビは時価総額1490億ドルを誇るグラフィック業界の巨人だ。デザインに特化した部門だけで、19年第3四半期に16億5000万ドルの売り上げを達成している。
加えて、「Figma(フィグマ)」や「Sketch(スケッチ)」といった人気のスタートアップも台頭している。これらの会社はプロにも製品を提供しているが、容易に消費者向け製品も展開できる。しかも、それはキャンバの動画やプレゼンソフトといった新製品開発の野望を考慮しなくても、である。すると今度はインスタグラムや、「パワーポイント」の作り手であるマイクロソフトとの衝突を避けられない。