ジュエラー「フレッド」が贈る医療従事者へのエール

午後の8時。仏パリ市内では、住民たちがバルコニーに出たり、窓を大きく開けて拍手を贈る。なかにはアリアを歌う人や、楽器を弾く人も。そして何度も続く「ブラボー」……これらはすべて、新型コロナウイルスと最前線で戦う、医師や看護師など医療従事者へ向けられた感謝と賛美の声だ。

外出禁止が続くフランスでは、ステイホームを余儀なくされる人々がどうにかして医療従事者への感謝へ伝えたいと、この “感謝の拍手”が3月中旬から自然発生的に生まれたのだという。そして、この“感謝”を表現し、支援の手を差し伸べているのは、市井の人々のみならず、国内外の企業やラグジュアリーブランドらも同様だ。

そのひとつが「フレッド」。1936年にパリ、ロワイヤル通りにブティックを構え、モナコ公妃であったグレース・ケリーやマレーネ・ディートリッヒなど数々のセレブリティを顧客にもっていた老舗ジュエラーである。このフレッドは、顔全体がカバーできる医療従事者用フェイスシールドを3Dプリンターで製作する「Les Visieres de l’Espoir(希望のマスク)」という活動に、オンラインブティックの売り上げ20%を寄付している。

そしてフレッドの支援をよりユニークにしているのは「Draw For Our Heroes」だ。これは、イラストレーションを通じて、最前線で戦う医療従事者を励まし、サポートするという試み。参加はごく簡単で、医療従事者を励まし、感謝を伝えるイラストを描いて、フレッドのインスタグラムアカウント(@FredJwelry)に#DrawForOurHeroesのハッシュタグをつけてダイレクトメッセージで送るだけ。そのイラストの一部はフレッドのインスタグラムストーリーに投稿されるという仕組みだ。しかし、なぜイラストなのだろう?

「この危機は全世界の問題ですから、言語や年齢の壁を超えて、同時にできるだけ多くの方に発信したいと思っていました。すぐに世界で共有できる表現方法として浮かんだのがイラストです。フレッドにとってデザイン画やイラストは、メゾンのDNAの核を成すものであり、伝統の一部ともいえる大切な存在ですから」と語ってくれたのはフレッドでCEOを務めるチャールズ・レオン氏だ。


「Draw For Our Heroes」で最初に投稿されたイラスト。

ではどんなイラストが投稿されているのだろう? まず目につくのは、青の色鉛筆で描かれたフェイスシールドをかぶったヒーローの姿だ。

「この最初のイラストは青一色でさっと描かれていますが、我々の危機に立ち向かう決意を見事に表現してくれています。ほかにも、次々と送られてくる画像を見て気づいたのは、多くが子供たちによる作品であること。親と子がこの活動を通して、前線で新型コロナウイルスと戦っている人々への思いを語り合う時間がもてたことをうれしく思いました」(同)


日本のユーザーより投稿されたものはどれもカラフル。イラストは今後、ポスターや冊子にまとめられ、医療施設などに贈られる予定。

ほかにも医療従事者をスーパーヒーローに仕立てたものや、ハートや文字で感謝とリスペクトを伝えるものなど、イラストはどれも見るものをあたたかな心持ちにしてくれるものばかり。フレッド創業者のフレッド・サミュエルは「人生は分かち合うから価値がある」と語ったそうだが、まさにいま、こんなときこそ希望と友愛を共有すべきタイミングなのだろう。フレッドのジュエリーはいつもタイムレスな輝きを放っているが、私たちの心の中にも宝石のようにきらめく熱い想いがあった。大切なことを改めて気づかせてくれた「Draw For Our Heroes」に “感謝の拍手”を贈りたい。

文=秋山都

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