新型コロナと人類は「ダンス」で共存? 40カ国語に訳された米対策論文のシナリオ

「コロナウィルス感染者は他の人をどのように感染させるか」を示したグラフ(Tomas Pueyo)


追跡担当者は何人必要か?


では以下、米大学ジョンズホプキンスの考察を紹介しよう。


図24:10万人当たり必要な追跡担当者数

このジョンズ・ホプキンス大の計画によれば、米国では接触者追跡担当者10万人が必要だ。30万人とする計算方法もある。数値の幅が非常に広いのは上記グラフの幅が非常に広いためだ。武漢とニュージーランドでは10倍ほども開きがある。これはどうしてか?

実は必要な接触者追跡担当者数のギャップには意味がある。人口が100万人で感染者がゼロの国もあれば、人口100万人で感染者が1万人である場合、同じ人数の接触者追跡担当が必要かといえば、答えはノーだからだ。

接触者追跡担当を雇うということは彼らの「時間を買う」ことになる。必要な時間は、感染者数と、感染者1人当たりに費やす時間によって違ってくる。

症例数は国によって異なり、流行の進行状況もさまざまだ。感染者1人当たりに必要な時間も、接触者追跡担当がどれくらいのトレーニングを受けているかと、使える技術によって異なる。いくつかの例を見れば、ケタ違いに見える数値の規模感が理解できる。

感染ピーク時の湖北省には、5人の追跡担当者からなるチームが1800あり、接触者を追跡していた。追跡担当者9000人が動いていたことになる。公式発表された感染者はピーク時に約4000人だった。計算の仮定として、湖北省が封鎖されてから数日後に9000人の捜査官が雇われ、危機がおさまった約1カ月後には仕事を完遂できたとする。


図25:湖北省で接触者追跡作業に要した時間

湖北省では接触者追跡1件当たり「追跡担当者4人日」


湖北省で9000人の捜査官が雇われてから、危機がおさまった日までの間に(9000人の追跡担当者が週末も休まず27日間働いたと仮定した場合)、接触者約6万3000人に対応することができたことになる。

これは、1件の接触者追跡当たり4人日ということになる(1人日=1人が1日働くこと。したがって、4人日=4人が1日働くか、1人が4日間働くこと)。もし実際には雇われた日がもう少し前だったり、作業完了日がもっと後までかかっていた場合は、1件の接触者追跡当たりは5人日から6人日となるかもしれないが、それ以上にはならない。

この数字を、次の米国保健福祉省の元センター長(オバマ政権時の元CMS局長A. Slavitt氏)の説明と比較してみてほしい。

「一般的には1件の接触者追跡作業には平均して4〜5人で3日間を要します」。

米国では追跡1件当たり「追跡担当者12〜15人日」。コストは年間70億ドル


この説明によれば、接触者追跡作業1件当たりのコストは12〜15人日となる。

ある国で1日当たり1万人の新規感染者がいると仮定しよう。検査の陽性率が約3%なので、これは事実であると確信できる。

もし仮に接触者追跡技術を持っていない場合、追跡担当者は感染した人々に電話で問い合わせし、その後すべての接触者に電話して1人ずつ調査する必要がある。人は2日前に誰とランチを食べたのか確実に記憶しているとは限らず、2週間前に至ってはより定かでないため、電話での会話時間は非常に長くなる。それから報告書を作成し、データを分析し、他の症例との関連性など相互チェックする必要があるのだ。

1件の接触者追跡作業ごとに15人日かかるとすると、接触者追跡作業1万件=15万人日が必要になるため、追跡担当者15万人を雇う必要がある。週末、休日、病気休暇などをカバーする必要がある場合、その数は20万人程度になる可能性があるのだ。

すべての諸経費を含め時給20ドルとすると、年間70億ドルになる。高額ではあるが、現在の経済活動停止のコストがバケツ一杯の水とすれば、わずか水一滴といってよい。

もし、1日当たりの新規発症者が1万人でなく1000人しかいなかったとしたら、必要な労働力は1日当たり2万人にまで低下する。

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構成・編集=石井節子

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