新型コロナと人類は「ダンス」で共存? 40カ国語に訳された米対策論文のシナリオ

「コロナウィルス感染者は他の人をどのように感染させるか」を示したグラフ(Tomas Pueyo)

新型コロナウイルスに関する記事は日々数え切れないほど発表されている。しかし、中で世界で6千万回以上読まれ、40以上の言語に翻訳されている記事がある。米国の起業家でジャーナリストのTomas Puey氏が「The Hammer and the Dance(ハンマーとダンス)」の概念をベースに書く「コロナ対策論文」シリーズだ。

米国ではホワイトハウスがホームページで紹介、また「ニューヨーク・タイムズ」紙が「ザ・デイリー」で引用したほか、日本でも京都大学山中伸弥教授がブログで解説。最近では西村新型コロナ対策担当大臣も記者会見で紹介した。

その収束シナリオの中で、Pueyo氏は、ロックダウンなどの強力な対策を「ハンマー」、ハンマーで叩いた後にもゼロにはならないウイルスとの共存状態を「ダンス」と定義する。そしてカンフル剤としての「ハンマー」は重要だが、その後の「ダンス」でもサステナブルに闘うことが必要、とのロジックを主軸に、多くの論文やデータをベースとした議論を展開している。それが、しばしば権威筋から引用されること、世界で読まれている理由でもある。

具体的にはPuey氏は、コロナ対策決定の指標として「実効再生産数(R=1人の感染者が何人に感染させるかという数値)」を重視する。

対策をまったく行わない場合、この「R」値は約2.5。「ハンマー」のフェイズでは感染者を可能な限り減らすことを優先し、Rを0.5程度まで下げることが必要である。そして、Rを2.5から0.5にするには、人同士の接触を0.5/2.5=0.2に、つまり80%以上減らすことが求められる。

この理論は次に、「ダンス」のフェイズにおける、「R」を「1を超えない」程度に抑えることを前提にした経済活動再開を提案する。「R」を1未満にするためには、人同士の接触を1/2.5=0.4、つまり60%以上減らす必要がある、という。

そして「ハンマーとダンス」の理論は、人同士との接触を「平時の60%以上減らす」努力がおそらく1年以上は必要、と説いていく。

Forbes JAPANでも、著者の許諾を得、一連の記事のうち、「経済の再開に向けて」がテーマの4回シリーズの記事から「接触者追跡の重要性(Coronavirus: How to Do Testing and Contact Tracing)を抜粋翻訳した。以下、新型コロナ理解のための情報として、またコロナ対策を考える上での一資料として紹介する。

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シナリオ:「ボブ」が感染した場合


接触者追跡を巧みに行えれば、感染削減はもちろん、経済の安全な再開のための「ハンマー戦略」から「ダンス戦略」に切り替えることができる。しかし同時に、接触者追跡は非常に入り組んだ問題、とくにプライバシーの問題をはらんでいる。

この問題に取り組む前に、そもそも「接触者を追跡すること」とはどんなことかを理解する必要がある。



感染した人を仮にボブと呼ぼう。ボブが接触した人を、出来る限り多く、できるだけ早く特定したいとする。重要なのは、対象とするのはボブが「出会ったすべての人」ではなく、「感染した可能性のある人」だ、ということだ。

そのためには「接触者追跡チーム」を組織することが必要だ。

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構成・編集=石井節子

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