ああ、日本に帰れなくなった「ラトビア取り残され記」

トムスマ・オルタナティブ




感染より怖い、不安ストレスによるIQ低下

実感。ここに陥らないように気をつけねばなりません。リラックスして、深刻にならないことの大事さよ。封鎖後、早急にやらねばならぬ手続きに追われながらニュース記事を見たり映像を見たりして引きこもり続けた数日後、ドミトリーのスタッフが私に話しかけてきているのに、まったく何を言っているか理解できませんでした。ものすごい単純なことを言っているのにまっっっっったく、わからないんです。数日前、普通に会話した人と会話が成立しないのです。

3回聞き直して、リピートアフターユーしてやっと「今日、何してた?」と聞かれたことを理解しました。これはさすがに、猛烈に心配されました。

こんな孤独感緊張状態はまずい、そうだ、もうずっとここで生きてきたことにしよう。そう、私はジモティ。ああ、久しぶりに帰って来た〜。イエーイ、ホーム感〜〜と連呼しながら歩き、買い物では憶えたてのフレッシュなラトビア語 “labdien!(こんにちは)” “Paldies!(ありがとう)”を連呼してジモティを装いました。

翌日朝起きたら、両手首と脇腹に湿疹が出ていました。

不安感情に蓋をして元気を装うという嘘が体にしっかりバレています。あれ? 象さんいたっけ? 私の手か! という毎日が一週間続きました。

そんな中、尊敬する瞑想マスターよりZOOMでメディテーションの情報が入りました。ノンストップ思考状態が続いていたので、嬉々として参加しました。3時間のzoomでメディテーション。翌朝、湿疹がすっかり消えていました。マジで、瞑想、すごい。「敵ではなく現象的教師」と、コロナについて、そう考えることにしました。


非常事態宣言前のリガの様子。地球のかぶりものをしたトムスマさん 写真=soo

意図の扉

ラトビアは4月7日、非常事態宣言を4週先の5月12日まで延長する改定が行われました。この時から、「どうやって帰ろう」から「どうやってここで生きていこう」へ、私の脳内思考は急激な変動を見せ始めました。

こうなると人間は、機能活動スイッチの切替をあっけなく行うものだと身を以て感じます。わかりやすく見えてくるものが変わります。どこのスーパーの何がお得とか、あそこであれが30%オフ!とか、そういう日用の細かいことから、自分の制作に必要な画材や手芸店が道を歩いているとどんどん出現します。そして何気ない風景の鮮やかさ、膨れあがるほどに美しい植物たち。

現実的な話をすると、アウェイでの私の資金はもう底をつき始めています。それにもかかわらず、日々の些細で静かな時間に幸せを感じます。私はバカになってしまったのだろうか。現実逃避から体内が防衛手段としてオキシトシン分泌をしているのだろうか、麻酔のように。

想像し得る限りの最悪の事態を自分自身に投げかけた時、そうなったら仕方ない、という結論に着地したその瞬間、呼吸を取り戻した気がしました。それから早急に決めねばならない次の行動について、その動機を注意深く見てやることは大事だと思いました。不安か希望か、その違いは明らかで、どちらを動機とするのかの選択の自由は残されていました。

生活するということは、意図していくということかもしれません。

意識的に過ごすと、必要なものを見つけ出す。

そういう機能が人間に備わっていることを今改めて教わっている気がします。


5月になり、緑にあふれて、街の人々は軽装になった。

今日、更新情報を確認せねばと、在ラトビア日本国大使館のHPを訪れました。コロナ情報ページの一番下に、厚生労働省による正しい手洗い方法のユーチューブ動画がありました。そしてその下に、ピコ太郎によるPPAP 2020、Hand Wash動画がありました。大使館が提供するユーモアに、愛おしさと感謝の気持ちでいっぱいになりました。

編集部註)5月7日、ラトビア政府は一部の措置を緩和すると発表。緊急事態宣言は6月9日まで延長することが決定された。

文=トムスマ・オルタナティブ 編集=藤吉雅春 一部写真=SOO

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