FDAが7日に緊急使用を認めたのは、2019年創業の米バイオベンチャー、シャーロック・バイオサイエンシズ(Sherlock Biosciences、マサチューセッツ州ケンブリッジ)が開発した検査キット。ラフル・ダンダ社長兼最高経営責任者(CEO)はこの製品について、CRISPRの能力を証明するだけでなく、「私たちが生きている間で最大級の医療問題」に対処することになると意義を強調した。
検査ではまず、鼻や喉や肺から検体を採取し、その遺伝物質を一定の温度を保ちながら多数複製する。次に、これらの複製の中にCrispr分子(「Cas13」と呼ばれるタンパク質複合体)を加える。検体の中に新型コロナウイルスのRNA配列があれば、Crispr分子がそれをつかんで細かく切り刻んでいき、その一部が蛍光標識される。取り出した検体は「発光」する。これがウイルスの陽性反応だ。
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査や最近注目されている血清中の抗体検査など、新型コロナウイルスの検査で重要なのは全体的な精度だ。そこでは、感染している人の検査で陽性となる(真陽性)人の割合を指す「感度」と、感染していない人の検査で陰性となる(真陰性)割合を指す「特異度」が問題になる。
そこでシャーロック社の出番となる。社名は架空の偉大な探偵にちなむだけでなく、同社が開発した技術「Specific High-sensitivity Enzymatic Reporter unLOCKing」の頭字語でもある。同社によると、FDAの許可要件を満たすために2000回近くの検査を実施したところ、感染者については100%ウイルスを検出したという。ただ、検査はすべて真陽性、真陰性が確認されている検体を用いて行われた。
シャーロック社の基礎にある技術は、マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学が共同で運営するブロード研究所のフェン・チャンのラボと、MITのジム・コリンズのラボの研究からスピンアウトしたもの(二人は共同創業者9人に名を連ねている)。新型コロナウイルスの感染が急速に拡大する中、ダンダは取締役会の支持も得て、2カ月ほど前に会社をこのウイルスの検査キットに専念させることを決めたという。
ダンダは自社の技術の強みとして、ウイルスが変異して新しい株ができた場合に、速やかに検査を適合させることができる点を挙げる。現在、パートナーと協力して大量の検査キットを用意できるよう動いており、近く発表できる見通しだという。また、ラボで検査するものとは別に、家庭で使えるタイプの検査キットの開発にも取り組んでいる。
FDAはこれまでCRISPRのヒトへの利用では、遺伝子異常で貧血を引き起こす鎌状赤血球病やβサラセミアの治療薬などの小規模な臨床試験は認めているが、大半は初期段階の試験にとどまっている。緊急使用許可は通常の医薬品承認とは異なり、公衆衛生上の緊急事態が出されている間、特定の薬や検査の使用を特例として認めるもの。