起業家の「正しい気がする」の先に、新たな産業がある
新型コロナウイルスが呼び水となり、景気が後退していくであろうことは多くの投資家たちが予想している。今後はCVCでも投資判断が厳しくなる可能性も高いが、「だからこそシード投資を続けなければ」と佐俣は言う。
「僕、2009年の空気感を今でも覚えているんです。リーマン・ショック後の景気後退で、不況の真っ只中にいました。そのタイミングで生まれた企業がラクスルとユーザベースです。2社の代表はどちらも外資系企業に勤めていて、周囲は起業を反対していました。でも、起業した。本当に起業したい人にとって、景気は関係ない。そして僕らは、この環境でも起業する人に投資しなくちゃいけない」(佐俣)
そして、ANRIは2012年にラクスルへの投資を決めた。その後のラクスルの躍進は誰もが知ることだろう。ラクスルが起業したときのエピソードとして、こんなものがある。ラクスル代表の松本恭攝が起業を決めたとき、佐俣だけが「おめでとう」と声をかけたのだ。この「おめでとう」にこそ、ANRIのDNAとも言うべきスタンスがある。
「起業家がファーストペンギンならば、投資家はファーストビリーバー。起業家の多くが『なぜこのタイミングなのか』『なぜやるのか』の言語化が追いついていません。だから『理由はわからないけど、正しい気がする』みたいな説明になるんですよね。その『正しい気がする』に対して『じゃあやろう』とできることが、新しい産業につながると思っています」(佐俣)
もう1つ、ANRIがソクダンやオンライン完結型投資のような新たな試みに挑む理由がある。それが、起業家以上に困難な状況を楽しむこと。
ANRI代表の佐俣アンリ
「今の状況は、世界中どこにも前例がない。起業家も投資家も、みんな悩んでいます。そんななか、僕らは、模索しながらも挑戦する立ち位置でいたいと思いました。
やってみてだめだったら、やめればいいだけのこと。もしかすると、今始めたことがうまくいくかもしれない。オンライン完結型投資が成功し、起業家と投資家の新しい信頼関係の作り方が生まれたら、僕らは世界中にシード投資をする手法を生み出せるかもしれないんです。だったら、最初に挑むくらいの気概を、投資先の起業家たちと競いたい。それも、楽しみながら。ふと振り返ったとき、『あのときは大変だったね』と、みんなでゲラゲラ笑いあえていたらいいですよね」(佐俣)