「いま」を切り取りブランド価値を発信。コロナ危機にナイキが訴えたこと

NIKE「Play for the world」

広告コミュニケーションが昔から得意としていることの1つは、「いまを切り取る」ことだ。そうすることで、見る人の共感を得やすくしようと務める。動きの速い業界だからこそ、ビビッドに感応する素早さには、驚くほどのものがある。いまを切り取ることは、いまやらないと意味がないからだ。

我々は、100年に1度とも言われるコロナ危機の中にある。それは誰も経験したことのない状況であり、未経験の「いま」に溢れている。その危機に、広告コミュニケーションは、映画や小説よりもいち早く感応し、「いまを切り取る」試みがすでに数多くなされている。この試みには、イケア、DOVE、CADBURRY、フェイスブックなど、海外では多くの企業が参戦している。

そんななかでも、4月9日に公開されたばかりの、まさしく「いまを切り取る」ことで多くの共感を得ている事例をご紹介しよう。すでに570万回以上視聴されている、ナイキの「Play for the world(世界のためにスポーツしよう)」というウェブ動画である。


NIKE「Play for the world」(Ads of Brandsより)

1分ほどのこの動画は、モノクロ静止画の積み重ねで始まる。一般人が家庭内でスポーツするシーンを切り取った静止画に映し出されるメッセージは、「リビングルームでスポーツする人々へ」「キッチンでスポーツする人々へ」「廊下でスポーツする人々へ」などだ。そして、「いまは一緒にプレイできないかもしれない」「国を代表してプレイできないかもしれない」「大観衆とともにプレイできないかもしれない」と続く。

そして40秒くらいに最も重要なメッセージが表示される。「だけどいま、我々は78億人のためにプレイすることができるのだ」と、在宅でスポーツすることを訴える。

この後、多くの一般人が在宅でスポーツする映像が映し出され始め、最後にはこう締めくくられる。

「これは我々のチャンスだ。世界のためにプレイしよう」

「Play for the world」はもちろん、「Pray for the world(世界のために祈ろう)」に掛けた言葉だろう。ナイキは世界中のスポーツ愛好家に対して、「こんな時だから家でプレイしよう。それは世界を救うことにつながるのだ」というメッセージを発信し、人々の強い共感を得て、ブランド価値を高めることに成功している。
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文=佐藤達郎

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