経済・社会

2020.05.13 06:00

コロナ危機で再燃するユニバーサル・ベーシックインカム議論。実現の壁は何か

再び熱を帯びているユニバーサル・ベーシックインカムの議論。課題と成功の鍵は?(Shutterstock)

新型コロナウイルスが与えた経済ダメージは、世界恐慌並みとも言われています。職を失った人も増え続けるでしょう。そんな中、ユニバーサル・ベーシックインカムの議論が再び熱を帯びてきています。否定的な意見も聞かれる制度ですが、その実現の壁となっているものとは。世界経済フォーラムのアジェンダからご紹介します。


手遅れになる前に今こそUBI制度を


危機管理における第一のルールは、穴にはまったことに気付いたら、掘るのをやめること。

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう中、複数の国が大規模な財政出動を打ち出し、紙幣の増刷を検討しています。パンデミック(ウイルスの世界的な流行)と壊滅的な経済不況が同時進行する中、その危機の緩和を狙ったものです。

こうした計画は不可欠ではありますが、戦略的かつ持続可能なものであることが大前提です。現在の危機に対処するためには、これ以上、新たな危機の種を蒔くことは絶対に避けなければなりません。なぜなら、その代償は恐ろしく大きいものになるからです。

各国政府が導入している一連の政策に、新たな要素を加えるべき時が来ています。知識として知ってはいるものの、過去に忘れ去られた制度、「ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)」です。これは、このポッカリと口を開けた穴から抜け出すための政策の一部として必要な制度です。

この構想に否定的な人は多く、国民全員に一定額を給付する財政的な余裕のある国は存在しないので、失敗するはずだと指摘します。持続不能な赤字を垂れ流すので、財政が成り立たないというのが彼らの主張です。

この懸念は妥当なものです。しかし、だからと言って、新型コロナウイルスによる影響に対し強力な対処策を打ち出さない場合、格差がますます広がり、社会的緊張が高まる恐れがあります。結果的に政府にとって、コストが増え、社会的対立のリスクが高まることになるのです。

中国で発生し、アジア全域とさらに幅広い地域で猛威を振るう新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、膨大な人口を抱えるこの地域の格差と脆弱性があらわになりました。これには、アジア太平洋地域の労働力の3分の2にあたる13億人の非正規労働者が含まれ、インドだけでも職を失った移民が1億人近くいると言われています。社会的なセーフティネットがない状態で、世代全体の大部分が生活に困窮した場合、社会的コストは信じられないほど高くなります。社会的緊張の急速な高まりは、経済不安につながるでしょう。

現状のように、低迷する経済を活性化させる必要がある場合、社会的安定によってもたらされる効果は計り知れず、UBIが有効であるという説得力はさらに増しています。

社会全体に根深く存在する格差を是正するには、この危機の中から新たな社会契約が生まれる必要があります。率直に言って、問題は、効果的な社会的保護のための財源を捻出できるか否かではなく、どうすれば捻出できるかなのです。UBIは、こうした枠組みを作る有用な要素になるはずです。

アメリカやカナダはすでに計画に着手しており、アラスカ州では、数十年前から、全市民を対象にUBIに近い形の年次給付が行われています。カナダのジャスティン・トルドー首相は、パンデミックの影響で収入を失った労働者を対象に、今後4カ月間、月額2000カナダドルの給付を行うと約束しました。この対策は短期的なUBIと言えるでしょう。
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文=Kanni Wignaraja Assistant Secretary-General, United Nations & Balazs Horvath Chief Economist, UNDP, Asia-Pacific

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