なぜ、勝ち続ける企業はみな「二兎追い戦略」なのか[世界の権威に聞く「最新・企業経営論」]

イラスト=ベルンド・シッファカーデッカー


日本の代表企業は富士フイルム

マグレイス教授は、コーポレート・ジャパン(日本産業界)をどう見ているのか。日本企業には、コンセンサスの形成や物事を遂行する力、クオリティーの高さ、正確さなど、素晴らしい長所がある、と同教授は称賛する。

「ただ、(こうした強みは)時間を要するものばかりだ。世界がものすごい速さで動いている今、はたして、それだけの時間があるのか。ここに日本企業のジレンマがある」イノベーションの障壁も多すぎると、同教授は言う。崩れ始めているとはいえ、終身雇用制や厳格なヒエラルキーが、女性の勤続を難しくしているともいう。

「とはいえ、不採算プロジェクトの売却を発表したソニーを見ればわかるように、変わらねばならない、という認識は広まっている」

『競争優位の終焉』でも取り上げられているが、同教授は、富士フイルムを高く評価している。

「デジタル革命の到来を予期し、変わることを恐れず、経営陣が進んで“賭け”に出た」

苦戦しながらも、事業ポートフォリオの分散化や他業種参入に挑み、健全な企業として成長を続けている、とマグレイス教授は言う。過去の優位性に見切りをつけ、新しい一時的優位性の構築に成功した好例だ。

一方、日本ではトップに上り詰めるまで何十年もかかるため、CEOに就任するころには、会社の色にどっぷり染まっていることが多い。

「日本企業にとって、変革の大きな障害になりかねない」

イノベーションで一時的競争優位を築き、成長を続けるカギは、「変わるリスク」を恐れないことだろう。

リタ・マグレイス◎コロンビア大学ビジネススクール教授。2013年には「Thinkers50」で「最も偉大な経営思想家20人」および「ツイッターでフォローすべきビジネススクール教授10人」の1人に選ばれている。著書に『競争優位の終焉』(日本経済新聞出版社)など多数。

文=肥田美佐子(ニューヨーク在住ジャーナリスト)/イラスト=ベルンド・シッファカーデッカー

この記事は 「Forbes JAPAN No.10 2015年5月号(2015/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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