現在、世界が関心を寄せるのは、「第二波」への対応だ。その際に重要なことは、第一波の対応をしっかりと総括することだ。今回は、そのポイントを述べてみたい。
まず、なすべきは、PCR検査に対しての評価だ。第一波では、PCR検査の陽性者数に基づき、流行状態が推定された。ところが、感染者の多くは軽症あるいは無症状で、PCR検査を受けることなく自然に治癒した者も少なくない。この結果、多くの感染者が見落とされた。
正確な感染者数を推計するために用いられるのは抗体検査だ。抗体とは、病原体が体内に入った際に形成される蛋白質で、これを有することは感染歴があることを意味する。世界中の研究機関が、新型コロナウイルスに特異的な抗体を検出するための検査系を確立し、臨床応用した。
例えば米国では、4月3~4日にカリフォルニア州サンタクララ郡の住民3330人に抗体検査を実施したところ、50人(1.5%)が陽性と判明した。
この地域の人口は194万3411人で、PCR検査で確認された感染者数は956人、住民人口に占める割合は0.049%だ。ところが1.5%の住民が抗体を有していた。これは、感染者の30分の1しか診断されていなかったことを意味する。
多くの感染者は無症状あるいは軽症で治癒したのだろう。となれば、新型コロナウイルスの重症化率や致死率は、これまでに報告されていたよりずっと低いことになる。
抗体検査の精度を問題視する意見もある。たしかに、本当は抗体を保有しているのに、検出できないこともあり得る。感度は7割程度という専門家もいるが、感度が不十分なら、感染者はさらに多いことになる。PCR検査の検出能力に限界があることに変わりはないだろう。
日本での感染はいつ始まったか
このような所見は、このカリフォルニア州に限った話ではない。表1は5月6日現在、公開されている世界各地の抗体陽性率の一覧だ。1.0%~62.0%の抗体保有率が報告されている。
表1
日本でも4つのグループの調査結果が報告されている。東京の2つのグループの陽性率が5.9%と8.0%で高く、大阪(1.0%)と神戸(3.0%)は低い。これは東京を中心に流行が拡大し、関西にも及んだという実際の経緯とも一致する。
5月5日現在、東京都のPCR検査での陽性者数は4712人(チャーター機帰国者、クルーズ船乗客を含まず)だ。都民の人口あたりの感染率は0.034%である。しかし、抗体陽性率は5.9%~8.0%だ。とすれば、PCR検査で判明した感染者は、全体の174~235分の1に過ぎないことになる。これはカリフォルニア州の6~8分の1より遙かに低い。このことは、日本がPCR検査を絞ったこととも一致する。