ビジネス

2020.05.12 17:00

続く休業要請、正直余裕はない。けれど……。バーのオーナーが漏らした本音


佐伯:振り返ってみると、YouTube飲み会をやらなければ「気持ちの準備をしておこう」と思わなかったかもしれません。本来、自分の性格的にクラウドファンディングも、YouTube飲み会も向いていないと思っています。それはお客さんからお金をいただくことは、とても難しいと思っているからです。お店を始めて3年経ち、日々失敗したり迷惑かけたりしつつも、何とか店を廻せるようになってきた。
advertisement

でも、これまでやってこなかった新しいサービスがお客さんに支払っていただく代金と等価交換できる自信がなくて、手を出せずにいたんです。ただ、今後のことを考えるとそうも言っていられない状況ですし、やってみて良かったです。

小田:実は僕も佐伯さんと同じ感覚があり、自分にとって初となる写真集をこのタイミングに出すことには葛藤があって「なんでこのタイミングで出すの? 売名行為かよ」という批判も当然ありますし、最初の写真集が社会的な運動と一緒になったら色がつく。色々思うことはあったのですが、やっぱり佐伯さん、BAR トーストが好きないちファンとして、一緒に活動したりすることでみんなが少しでもハッピーになるのであれば、それが偽善と言われても構わない。やらない偽善より、やる偽善のが全然いいな、と。

批判は受け止める覚悟です。ただ、やるかやらないかで言ったら“やる方がいいこと”ってたくさんあるんじゃないのかな、と思って。僕の取り組みは小さいものですが、みんながやった方がいいことをもっとやるような世の中になっていくと、コロナに向き合える感じにもなっていくのかなと思いましたね。
advertisement

佐伯:SNSを見ていて「頑張っているな」と思うお店の共通点は、Giveの精神に溢れているということです。情熱というか、使命感で溢れている。もうTakeやWaitだけではダメで、行動に移さないとやばい状況にきている。Giveの精神で本当に愛さなければ愛してもらえない世の中になっているんだと思います。

自分も笑って、相手も笑えることをやっていく


小田:バーの本質的な役割は人を笑顔にする空間、場を提供すること。お酒を飲むだけでなく、佐伯さんや常連のお客さんと話して、楽しめたり、癒されたりする。そんな空間があることがバーの価値ですよね。すごく人の心を豊かにする仕事だと思います。

佐伯:自分はもともと雑誌の編集に携わっていたのですが、雑誌は「雑な誌」と書くじゃないですか。雑誌は本来、読まなくてもいいかもしれないもの。でも、雑誌の“雑”の部分には一生使わないかもしれないけど、知ってたら人の生活をちょっと豊かにすることがいっぱい詰まっている。それが雑誌の素晴らしいところだと思っていて。業態は異なりますがそれはバーも一緒だと思うんです。別にバーに一生通わなくてもいいけれど、少し覗いてみることでいつもよりたくさん笑ったり、出会うことのなかった人と知り合ったりする。それが人生を豊かにしていく。そういったところが雑誌とバーは同じだと思ったので、店をやる決意をしたんです。

null

これから飲食業界がどうなるかなんて自分にはわからないし、語る資格もないと思っています。ただひとつだけ言えるのは、店を開くって相当な覚悟が必要ですけど、やると決めて始めた商売なのだから、この先どれだけしんどい世の中になろうが日々笑っていなきゃ勿体ない。フォトグラファーもいま本当に大変な時だと思いますが、好きで選んだわけじゃないですか。せっかく好きを仕事にしてるのに毎日暗い顔して過ごすのって勿体ないですよね。

小田:本当そうですね。僕は性格が楽天的なのであれですが、あまり落ち込んでも仕方がないフェーズになりつつありますよね。お金のことを考えると嫌にもなりますけど、今できる準備と行動に集中して、できることをやっていく。それで自分も笑って、相手も笑えることをやっていくしかない。佐伯さんと話せて、改めて覚悟が決まりました。貴重な機会をいただき、ありがとうございました。

文=新國翔大 写真=小田駿一

タグ:

連載

新型コロナウイルス特集

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事