小田:周りの飲食店ではテイクアウトやデリバリーもやっていますが、BAR トーストはやらない方針なんですか?
佐伯:通常営業しているときは、トーストもハヤシライスや牛すじカレー、キーマカレーなどの料理を提供しています。緊急事態宣言の発令を受けて、ずっと閉めておくのも勿体ないと思い、テイクアウトも考えたのですが、うちっぽくないなと思ってやめました。餅は餅屋で、トーストは基本的にお酒をメインに提供する場所、テイクアウトは料理をメインに提供している店がすべきだと思ったんです。
飲食業界、どの店も余裕はない
佐伯:私の周りでも、この1週間だけでも閉店を決めた飲食店はたくさんあります。傷が深くなる前に閉めることも大事な勇気ですが、やっぱり悲しいですね。
小田:最近、インターネットを見ていて、閉店を余儀なくされた飲食店に対して「運転資金を持っていない会社が悪い、お店が悪い」と発言する人たちもいて。大企業はしばらくは生き延びられると思いますが、個人で飲食店やバーをやっている人たちは余剰資金を持っていないものですか?
佐伯:持っていないところがほとんどだと思います。飲食店とバーでは異なるので一概には言えないですが、飲食店はひと月の売上は大きいが、支出も大きい。一方、バーは売上は少ないけど、支出も少ない。どちらにしても純利益を出して、それを貯金に回すのは大変なことです。
小田:飲食店を個人でやっている人は店舗をオープンするために個人保証をして、数百万円から数千万円を借り入れて事業をスタートするわけですもんね。
佐伯:それも月々で返済しています。もちろん、成功して余裕のある店もありますが、正直、余裕のある店は少ないと思います。
早々に融資の申請をしている店もありますが、結局のところ借金をしなければいけないんですよね。先行きが見えず、休業を余儀なくされた状態の中で借金しないといけないのは、精神的にしんどいです。
小田:飲食店がうまくいかなかったら自分の借金になり、自己破産も考えなければいけない。同じ業界ではないですが、フリーのカメラマンの立場から考えても精神的にかなり負担があると思います。
佐伯:知り合いの飲食店経営者から、「うちは閉めることにしました」と連絡をいただくとき、メールの最後に皆さん「BAR トーストはがんばって残ってください」と書かれているんです。それを見ると、すごい何とも言えない気持ちになって……。うちも状況が状況なので、「本当にお疲れ様でした」としか言えない。
いま、やれることを必死でやっている店もあるし、休業を決めた店もありますが、共通して言えるのはどの店も余裕はない。飲食業界にいま明るいニュースはないですね。