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2020.05.09 21:00

ポストコロナの時代にも響く 「世界でいちばん貧しい大統領」の言葉

ホセ・ムヒカ(C)CAPITAL INTELECTUAL S.A

ホセ・ムヒカ(C)CAPITAL INTELECTUAL S.A

5月31日まで延長された新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言だが、先月7日に出されてからは、映画館の休業が相次いでいた。全国展開する大手シネコンに歩調を合わせ、ほとんどの劇場が休館となり、公開中の作品は上映がストップ、公開が予定されていた作品も軒並み延期や中止となっている。
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特定警戒都道府県以外の34県では、マスクの着用や座席間隔の確保などを条件に、徐々に劇場は再開されつつあるが、それでも新作の公開となると、映画人口が集中する13都道府県の劇場が営業を開始しない限りは、かなり難しいことも事実だ。

この困難な状況に、映画配給会社のなかには、公開途中で上映中止を余儀なくされた作品をネットによる配信に切り替えるという動きがある。

映画「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」も、そのひとつだ。3月27日の都内での公開を皮切りに、順次全国公開の予定だったが、すぐに多くの上映あるいは上映予定の映画館が休業に入り、公開が難しくなった。
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しかし、南米ウルグアイの大統領時代から清貧を旨とし、自然と共生する暮らしを励行してきたホセ・ムヒカの姿を描いたこの作品は、人々が新しい生き方を模索しようとてしているこの時期だからこそ公開する価値があるのではないかと、映画配給会社が期間限定の配信に踏み切った。


(中央)ウルグアイ大統領時代のホセ・ムヒカ(C)CAPITAL INTELECTUAL S.A

反政府ゲリラから大統領に


「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」は、反政府ゲリラの闘士から国の最高指導者にまで選ばれることになった、ホセ・ムヒカの数奇な人生をたどったドキュメンタリー作品だ。

監督は、元ユーゴスラビア(現ボスニア・ヘルツェコビナ)出身のエミール・クストリッツァ。劇映画である「パパは、出張中!」(1985年)と「アンダーグランド」(1985年)で、2度のカンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドールに輝いた世界的名匠だ。

映画は、ムヒカが、自宅の庭でそのクストリッツァ監督にマテ茶を勧めるシーンから始まる。ムヒカが入念に淹れ、自ら口をつけ味見をしたマテ茶をクストリッツァに渡す。一瞬、訝しげな表情を見せながらもマテ茶をすする監督。すると2人の表情が、同じ笑顔に染まっていく。

「もしもウルグアイが大国だったら、社会民主主義を生んだ国と呼ばれていただろう。1950年代までは、ラテンアメリカでは珍しい国と見なされ、南米のスイスと呼ばれた。だが以降、軍事政権が台頭、こうした歴史が我々活動家に影響を与えた」 

タイトルに続いて、ムヒカのこのようなモノローグが始まる。バックにはウルグアイという国を襲った悲劇の歴史の映像が流れていく。軍事独裁政権のもとで投獄されるムヒカ。しかし、彼の次のような言葉が続く。

「すべてはあの孤独な年月のおかげだ。あの敵意に満ちた過酷な環境がなかったら、今の私たちは存在しない。こんな言い方は酷かもしれないが、人は好事や成功よりも苦痛や逆境から多くを学ぶものだ。我々の闘いは続く」
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文=稲垣伸寿

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