地球にとっては人間なんてウイルスみたいなもの?

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より普遍的な基準を求めて


ハーバード橋の長さはスムートをメートル換算すると600mを超えるが、そう言われればスカイツリーの高さに近い数値であることに思い至り、頭の中でその規模をイメージできる。さらに大きなものとして都市や国なども考えられるが、われわれが現実的に想像できる最大のものは全人類の住む地球だろう。

実はいくつかの大学で持っているメディア論の講義で、「地球の大きさは何mか?」と尋ねることにしている。地球科学の授業でもないし、そんなこと考えたこともない、と多くの学生は答えに窮するが、答はしごく簡単で、全周4万km。従って円周率で割れば、直径は約1万2700kmになる。


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それというのも、1mの長さは、もともとフランス革命の時代に、パリを通る子午線の長さを赤道から北極まで測定して1000万分の1にするものと1795年に法律で決められてできたものだからだ。

つまり地球を4分の1周する距離が1000万m=1万kmであり、したがって地球の真裏にある国まで直線的に行くなら2万kmということになり、それを基準に地図上で辿っていけば、大体の国との距離も見えてくる。

つまり現在の長さの単位は、人間のサイズという主観的なものから分離し、より普遍的な基準を自然に求め、地球という人類が共有する星の大きさから、極めて人為的に定められたものになっていたのだ。

その当時は啓蒙時代を経て産業革命も起こったにもかかわらず、フランスでは800を超える異なった度量衡が存在し、地域間の商売に支障をきたしていた。フランス革命で自由や普遍的価値を主張した国が、長さの基準を地球に求めたことは、国家の違いを超えたグローバリズムの芽生えとも考えられよう。ナポレオン時代を経たフランスの国力と外交力のおかげで、メートルは各国が採用することとなり、19世紀の植民地時代に世界に広まった。

しかし地球という人間を超えた存在も、神が定めた永遠不滅の存在ではない。地球は実際には完全な球形ではなく、別の場所で子午線を測ればいくぶんか違うし、英国などは反発し地軸の長さを基準にすべきだという意見も出された。

また当時の測定の精度にも問題があって、フランスの覇権を面白く思わない他国の反発もあり、国際標準としてSIが世界的に承認されたのは1954年になってからだ。現在ではさらに、精度を上げ他の物理的単位とも整合を取るために光速が基準に使われている。
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文=服部 桂

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