親歴20年、上司歴10年、部下140人。乳がんを経た私が、コロナ危機に必要だと思う「力」

北風祐子さん(写真=小田駿一)


波が来たら、乗る。嫌になったら降りる。


職場でよく聞く言葉には、「ロールモデルになれ」「ロールモデルを見つけろ」というのもあるが、これもナンセンスだ。人それぞれ能力も価値観も家庭状況も何もかもが違うのに、その人丸ごとマネしたい人、マネできる人なんて、いるわけがない。ここでもシングルタスク切り分け法を活用して、人のマネしたいところだけをマネすればよいのだ。そうすれば、「この会社には女性のロールモデルがいない」などとがっかりすることもなくなる。

ワークライフバランス、マルチタスク、ロールモデル……すべて幻想。ないものを追い求めるのは時間の無駄と割り切って、淡々と時間を切り刻み、仕事を切り刻み、人を切り分けてから、一つずつと向き合うと、気持ちが楽になって、結果的にうまくいくことが多い。しばらく時間が経ってから振り返ると、切り刻んだはずの時間や、仕事や、人のピースが、元通りにつながっている。なので、心配せずに、どんどん切り刻むのだ。

無心にコツコツと地道にやっていると、あるとき波が来る。波が来たら、乗る。嫌になったら降りる。それくらいの軽い気持ちでいい。

これまで管理職になりたくないと言い続けていたある女性の部下が、そんな私の近くにいたことで、考え方が大きく変わったと最終日にメールをくれた。

「嫌な飲み会なんていかなくていいんだよ。

軽やかに挑戦してみればいいんだよ。

自分らしいやり方でいいんだよ。

それを日々の仕事の実践法として、背中で見せてくれました。

そして、思いました。

あ、そうか。

自分のやり方でやってみればいいんだ、と。

これが自分のやり方なんだ、と、堂々と。

一人一人のやり方が違うから、チームや組織として強くなれるんだ、だったら自分らしくやる私だからこそ組織に貢献できるんだなと。

そう思うと、目の前の仕事もとても楽しくなりました。

管理職のお話も、もし頂けたとしたら、前向きに挑戦したいと思えるようになりました。

北風さんへの恩返しは、まずは、この大切な教えを自ら体現し、周りの人に伝えていくことかなと思っています」

これを読んで、職場でプラスの連鎖の一部になれた気がして、心底うれしかった。誰かにしてもらってうれしかったことを、他の誰かにしてあげると、プラスの連鎖が続いていく。ちょっとしたことでも構わない。職場にいい風が吹いていないと、いい仕事などできるわけがない。

子どもと部下と、一緒に育っていく


子どもを育てる。部下を育てる。そんなことが簡単にできるとは思っていない。むしろ、一緒に育っていく、という感覚だ。永遠に未完成の自分と日々つきあわねばならないのが人間だから、完璧な親、完璧な上司など、この世に存在するわけがない。欠陥だらけで、失敗を繰り返しながら、毎日が過ぎていく。

ただ一つだけ、親歴20年、上司歴10年を経てはっきりと言えるのだが、子どもは親を、部下は上司を実によく見ている。親が、上司が、放つ空気を感じている。欠陥だらけ、失敗だらけでも、なんとかしようともがいていれば、その心意気だけは伝わっている。そして、そのうち、自分の頭で考えて、親や上司を飛び越えていけるようになれば、親としても、上司としても、もうそれ以上の幸せはない。

文=北風 祐子

タグ:

連載

乳がんという「転機」

ForbesBrandVoice

人気記事